今回の記事は、2023年にnoteで書いた記事を、特に患者さんおよびその関係者の方を想定読者として書き直したものです。
ラメルテオン(商品名ロゼレム)は、1錠8㎎の薬剤です。しかし、睡眠医療の現場では、睡眠・覚醒リズム障害がある人に対して、1/2錠(4mg) や1/4錠(2mg)、時にはそれ以下という低用量で処方する場合がよくあります。
どのような根拠でこの使い方がされているのでしょうか。
- 慢性不眠症に対してはラメルテオンは8㎎で効果あるとされている。しかし、睡眠・覚醒相後退障害は慢性不眠症とは重なる部分もあるものの違う病気なので、慢性不眠症の人を対象とした実験のデータは睡眠・覚醒相後退障害の人たちにそのままは当てはめられない。
- ラメルテオンは体内でメラトニンというホルモンに近い働きをする。諸外国の研究で、睡眠・覚醒相後退障害に対してメラトニンの内服薬を使う場合には低用量が良いという知見が積み上がっている。
- 実際、ラメルテオンの用量が8㎎よりは4㎎以下の方が睡眠・覚醒相後退障害に効果がありそうということを支持する研究がいくつかある。
なぜ、添付文書上は1回8㎎使うことになっているのか
この薬を開発した武田薬品によるロゼレムの添付文書には、「通常、成人にはラメルテオンとして1回8mgを就寝前に経口投与する。」とあります。
なぜ、そう決まったのでしょうか。それは、開発時の臨床試験からです。
武田薬品のページに置かれているインタビューフォームを読みとくと、慢性不眠症患者を対象とした臨床試験において、8mgと比べて4㎎では一貫した有効性が示されなかったということがわかります。
では、4㎎、2㎎などと量を減らしてラメルテオンを使うのは、すでに得られたエビデンスに反する意味のないことなのでしょうか? そういうわけではありません。ここで我々が問題にしているのは睡眠・覚醒相後退障害という、慢性不眠症とは微妙に違う疾患であるからです。
睡眠・覚醒相後退障害の人の多くは慢性不眠症です。しかし、慢性不眠症の人の多くは睡眠覚醒相後退障害ではありません。

ここで、両者の有病率を比べてみましょう。睡眠・覚醒相後退障害の有病率は、10代後半から20代の若い人のみを対象とした研究では有病率が3-4%あたりになることが多いですが [1,2], 60歳前後までを対象とした調査では、有病率が 1%よりも低いです [3,4]。一方、睡眠障害国際分類第3版改訂版によると、慢性不眠障害の有病率は人口の約10%と、睡眠・覚醒相後退障害よりはだいぶ多いです [5]。
すなわち、有病率の違いを考慮すると、ラメルテオンの用量を決めるための臨床試験に参加した20歳から64歳(中央値42歳)や20歳から84歳(中央値50歳)の慢性不眠症の方々の中に、慢性不眠症と一緒に睡眠・覚醒相後退障害を併せ持っていた人は、いたかもしれませんが少数派であっただろうと推測できます。
したがって、慢性不眠症の患者に対してラメルテオン8mgが最適という結果が臨床試験で出ていたとしても、睡眠・覚醒相後退障害の患者に同じ結果が当てはめられるとは限りません。
なぜ、睡眠・覚醒相後退障害のある人にラメルテオンを処方するのか
なぜ、ラメルテオンが睡眠・覚醒相後退障害の治療に効くだろうという発想がされるようになったのでしょうか。それは、ラメルテオンが「メラトニン受容体作動薬」であるためです。
メラトニンは、「夜が来たことを体に伝えるホルモン」と言われます。眠る時刻の2-3時間前から分泌され、夜間に分泌量がピークに達し、明け方にかけて下がっていくという性質をもっています。睡眠・覚醒相後退障害の患者さんでは、体内でのメラトニン分泌時刻が多数派の人より遅くなっている場合が多く、それが強い夜型となる一因であるとされています。
このメラトニンを内服薬としたものが、欧米の多くの国では処方箋なしで入手できるほど普及しており、特に米国ではすでに30年以上流通しています。さまざまな睡眠の病気に対するメラトニンの効果も多くの研究で検証されてきました。
その結果として、多くの国ではメラトニンの内服薬が、睡眠・覚醒相後退障害の患者が寝付く時刻を早くするためによく使われてきました [6]。米国睡眠医学会から出ている診療ガイドラインにおいても、睡眠・覚醒相後退障害患者に対してメラトニンが「弱く推奨」されています [7]。
しかし日本では、長い間メラトニンの内服薬は販売されていませんでした。(2020年よりようやく処方可能な薬となりましたが、それでもこの原稿を書いている時点では、神経発達症がある6歳以上16歳未満に処方対象が制限されています)
つまり、日本の睡眠診療の現場において、長らくメラトニンは使いたくても使えない薬でした。私自身は経験していませんが、どうしてもメラトニンを使いたい場合に患者さんに個人輸入してもらう場合もあったと聞きます。
そんな状況の中で、2010年から日本で使えるようになったメラトニン受容体作動薬が、ラメルテオンでした。メラトニン受容体作動薬とは、ざっくり言えば、体の中でメラトニンと似たような働きをしてくれる薬ということです。
使いたくてもなかなか使えないメラトニンに替わる役割が、処方薬として比較的使いやすいラメルテオンにこの国において期待されたのは自然な流れと言えるでしょう。
なぜ、ラメルテオンを4mg以下で処方するのか
もともと睡眠・覚醒相後退障害に対して処方されるメラトニンは、3~5㎎ほどでした [6]。しかし、研究が進むうちに、0.3mg~0.5㎎程度の少ない量でも夜型の人達を早くに眠らせられる効果があること [8]、むしろ投与量が多いと翌朝になお体内に残るメラトニンのせいで結局早起きが難しくなる場合があることすらわかってきました [6]。
それを受けて、メラトニン受容体作動薬であるラメルテオンに関しても、少ない量の方がリズムの調整にはむしろ効果的かもしれないという発想が出てきたのだと思われます。
ここで、ある研究を紹介します。
この研究では、75名の健常な成人を6日間、薄暗い実験室に滞在させ、その間、普段よりも5時間早い時間に寝床に行かせました。
そうして滞在2晩目以降、就寝30分前にあらかじめ決めておいた量のラメルテオンを飲ませて、飲ませた量によって体内時計がどのくらい朝型へ傾くかを比較しました。飲ませたラメルテオンの量は、0mg(プラセボ)、1mg, 2mg, 4mg, 8mg の五種類でした。
その結果、8㎎のラメルテオンを投与された人は、約28分しか体内時計が早まらず、プラセボと明らかな違いはありませんでした。一方で、1mg, 2mg, 4mgのラメルテオンを投与された人では、約80-90分とプラセボと比べて明らかに体内時計が早まりました。
これが、8mgよりは4mg以下の処方が睡眠・覚醒相障害のある人に対しては望ましいだろうと言われる根拠のひとつです。[9]
さらに、秋田大学のグループによる症例報告もご紹介します。これは、睡眠・覚醒相後退障害のあった15歳の患者に対して、ラメルテオンを8mgで処方していた間は入眠を早める明らかな効果が見られず、4mgに減らしたら急に5-6時間入眠が早まったというものです [10]。この研究もまた、8mgよりは4mg以下を使った方が良いという考えをサポートするものです。
ただ、実際に現場で4mgや2mgのラメルテオンを処方していると、それでうまくいく患者さんもいるのですが、翌日に眠気が出てしまってすっきりしないというケースも珍しくありません。
そこで、23人の睡眠・覚醒相後退障害の患者さんに対して、本人と相談しながら、翌日に眠気が出なくなる程度にまでラメルテオンの処方量を減らしていったという東京医科大学のグループによる研究もあります。この研究では、最終的に中央値で0.571mg(1/14錠)までラメルテオンの処方量を減らしつつ、入眠と覚醒の時刻をラメルテオン服用前より早められました [11]。
すなわち、もしかして4mgや2mgのラメルテオンですら多すぎるのかもしれません。
効果とは別の観点から、ラメルテオンの至適用量を探った研究もあります。神経研究所および睡眠総合ケアクリニック代々木のグループが373名の睡眠・覚醒相後退障害患者の治療継続率について、治療開始時に処方されたラメルテオンの量ごとに分けて後方視的に解析したものです。この研究では、8mg, 4mg, 1mg と比較して、2㎎を処方された人の、ドロップアウト率が最も低かったとしています [12]。
(もっともこの研究における「ドロップアウト」って、ラメルテオンの服用中断、用量の変更、他の睡眠関連薬の追加全てを含んでいるので、「ドロップアウト率が低かった用量ほど症状が改善した」と言えるわけではないです。「眠気が翌朝に出たから処方量を減らした」だけでこの研究だとドロップアウト判定になってしまうので…)
最後に
というわけで、睡眠・覚醒相後退障害に対して、1錠8㎎であるラメルテオンを私も分割したり粉砕したりして処方しがちです。薬剤師さん方の手間を考えると正直気は咎めますが、治療効果を考えると1錠丸ごとというわけにも行かないようなのでそうしています。
2mgくらいの大きさの錠剤があれば量の調整をしやすくて便利になるのにとよく思いますが、なかなか難しいようですね。
なお、ここまで睡眠・覚醒相後退障害にラメルテオンは低用量処方が良いという話をしてきましたが、保険診療の仕組み上は、この病名でこの使い方は、現状で保険の適応外使用となってしまうことはご留意ください。
とは言え、ラメルテオンを使うことによって睡眠相後退の症状が明らかに改善する患者さんたちは実際におり、必要な薬であると感じています。
朝早くから学校や仕事が始まり、遅刻が厳しい目で見られがちなこの世の中において、睡眠・覚醒相後退障害のある人は大変苦労をしている場合が珍しくありません。
睡眠相が後退しているなどリズム障害のある方々にとっての困りごとが少しでも減る一助となるために、ラメルテオンの低用量使用が公的に認められたり使いやすい剤型で発売されたり、他にも効果が期待できる薬の研究がさらに進んだりすることを願います。
参考文献
- Sivertsen B, Pallesen S, Stormark KM, Bøe T, Lundervold AJ, Hysing M. Delayed sleep phase syndrome in adolescents: prevalence and correlates in a large population based study. BMC Public Health. 2013;13(1):1163. doi:10.1186/1471-2458-13-1163
- Danielsson K, Markstrom A, Broman JE, von Knorring L, Jansson-Frojmark M. Delayed sleep phase disorder in a Swedish cohort of adolescents and young adults: Prevalence and associated factors. Chronobiol Int. 2016;33(10):1331-9.doi:10.1080/07420528.2016.1217002
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- Schrader H, Bovim G, Sand T. The prevalence of delayed and advanced sleep phase syndromes. Journal of Sleep Research. 1993;2(1):51-55. doi:10.1111/j.1365-2869.1993.tb00061.x
- 日本睡眠学会, 監訳. 睡眠障害国際分類 第3版 改訂版 (ICSD-3-TR). 東京: 一般社団法人日本睡眠学会; 2025.
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- Shimura A, Kanno T, Inoue T. Ultra-low-dose early night ramelteon administration for the treatment of delayed sleep-wake phase disorder: case reports with a pharmacological review. Journal of Clinical Sleep Medicine. 2022;18(12):2861-2865. doi:10.5664/jcsm.10188
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