やさしい睡眠医学https://yasashi-sleep.com睡眠専門医が、案外知られていない睡眠医学のことを解説します。Tue, 13 Oct 2026 10:38:13 +0000jahourly1https://yasashi-sleep.com/wp-content/uploads/2024/10/cropped-やさしい睡眠医学ロゴ四角_アートボード-1-32x32.pngやさしい睡眠医学https://yasashi-sleep.com3232 カフェインを便利に使おう!実践編https://yasashi-sleep.com/caffeine_practice/Tue, 13 Oct 2026 07:20:47 +0000https://yasashi-sleep.com/?p=1280

よりよい睡眠と覚醒のためには、カフェインをうまいこと使えると便利です!というわけで、実践編です。 基礎知識編はこちら↓ いま現在睡眠で困っていないという人なら、カフェインの摂り方を敢えて変える必要性は乏しいです。厚生労働 ... ]]>

よりよい睡眠と覚醒のためには、カフェインをうまいこと使えると便利です!
というわけで、実践編です。

基礎知識編はこちら↓

カフェインを便利に使おう!基礎知識編
この記事を書いた人

木花(もっか)

  • 日本睡眠学会総合専門医で研究者です
  • 病気というほどでもないものの、日中に眠くなりやすい&中年になってからは夜に不眠になりやすい方です
  • ふだんは、週に6日ほど1日あたり30㎎~100㎎程度のカフェインを摂っているというパターンが多いです。

より詳しくはこちら

いま現在睡眠で困っていない人

いま現在睡眠で困っていないという人なら、カフェインの摂り方を敢えて変える必要性は乏しいです。
厚生労働省による「健康づくりのための睡眠ガイド2023」 [1]で書かれているように、1日摂取量上限(成人なら400㎎)を守り、夕方以降は摂取しないということを心がけていただければ十分かと思います。

その上で、強いて言えば心がけていただきたいのは以下のことです。

「そのカフェイン本当に必要?」を意識しよう

私が思うに、カフェインって「積極的に摂る場合」と「消極的に摂る場合」があるんですよね。

具体的にはこんな感じです。

カフェインを積極的に摂る場合の例
  • 眠気を覚ましたい時に飲むコーヒー
  • カフェインの味が好きという自覚があって摂るコーヒーやお茶
  • せっかく来たアフタヌーンティーだから伝統的なお茶を飲みたい
  • 少しでもしゃきっとしたくて、カフェイン入りの風邪薬を飲む
カフェインを消極的に摂る場合の例
  • 毎朝の習慣として飲むコーヒー
  • 水分補給目的でジャスミン茶を毎日作って冷蔵庫に入れている
  • 出先で配られたペットボトルが緑茶
  • ソフトドリンク飲み放題で、他が甘い飲み物ばかりだったので烏龍茶を選んだ
  • 成分を見ないで買った風邪薬にカフェインが入っていた

後者だと、たいていは、敢えてカフェインを摂る必要のない状況だと思われます。こういう時に可能ならカフェイン以外の選択肢をとるだけでも、カフェインを体に入れることをかなり避けられます。

かめさん
かめさん

どうして、必要のないカフェインを摂らない方がいいの?

ひつじさん
ひつじさん

「睡眠の質が悪くなるリスクが増える」

「カフェインに体が慣れると、いざ効かせたい時に効きにくくなる」

「むやみにカフェインをとると、抜けた時の離脱症状がきつくなる」

の3点ですね!

水分摂取目的の飲み物はカフェイン抜きにしよう

元気な人
元気な人

いちいち、「このカフェインを摂るべきかどうか」なんて自問するのも面倒くさいですよ

そんな人には、とりあえず、「水分摂取用の飲み物はカフェイン抜きにする」ことをお勧めしたいと思います。

水分摂取用の飲み物の例
  • いつも水筒に入れて持ち運んでいる飲み物
  • 家の冷蔵庫に常備している飲み物
  • 夏にだらだら汗をかきながら、出先の自販機で買い求める飲み物

水分摂取目的となると、それなりの量を飲むことになります。たとえば緑茶を1L飲むとして含まれるカフェイン量は200㎎くらい。理由もなくとるカフェインとしてはそれなりの量です。その結果として睡眠の調子が悪くなったり、いざという時のカフェインの効きが悪くなるのだったら、もったいないと思うのですね。

カフェインをほぼ含まない飲み物の例
  • 水
  • 麦茶
  • ルイボスティー
  • ハーブティー全般
  • 「ノンカフェイン」「デカフェ」「カフェインレス」を明示しているお茶やコーヒー
ひつじさん
ひつじさん

最近、カフェイン抜きかつ甘くもないドリンクを選べるカフェや夜のパーティが増えては来ましたが、この選択肢がもっと当たり前になるといいなと思います。

不眠で困ることが多い人

さて、不眠障害の人や、病名がつくほどでもないけれども不眠で困ることが時々あるという方の場合は、このあたりが落としどころの目安ではないかと個人的には考えます。

カフェインは1日につきコーヒーで1,2杯程度、遅くてもおやつの時間には終わらせる

以下、そう考えるに至った理由の説明です。

不眠がある人にカフェインを勧めない理由

基礎知識編でも説明しました通り、カフェインを摂ると、寝付きが悪くなったり、夜間の覚醒が増えたりしがちです。

また、カフェインはレストレスレッグス症候群の症状を悪化させるとも言われています [2]。

さらに、通常の就寝3時間前にカフェイン2.9mg/kg (体重50㎏の人だと145mg)を与えた場合に、メラトニン分泌のリズムが、プラセボ摂取の場合よりも約40分ほど後ろにずれたという実験結果があります [3]。要するに、夜にカフェインを摂ることが、体内時計の夜型化を助長するおそれもあります。

そんなこんなで、夜の睡眠を妨害する要素をカフェインはいろいろと備えているというわけです。

不眠があってもカフェイン完全除去を強く勧めるわけではない理由

とはいえ、不眠がある人がカフェインをやめさえすれば必ず不眠が改善するかというと、その証拠は確立していません。

不眠で悩んでいる人にカフェイン制限をかけた研究というのはいくつかあるものの、「効果あり」とする研究と「やめても変わらない」とする研究が混在しています [4,5]。しかも、研究の数自体が少ないです。現時点では、一定の結論を出すことのできない状態です。

なぜカフェインをやめても不眠が改善する傾向がはっきりしないか。個人的な意見ですが、基礎知識編でも述べているようにカフェインを常用していると耐性が生じるため、毎日同じ程度のカフェインを摂っているとそのことによる睡眠への影響が出にくくなる、ということが一つの理由なのかもしれません。

あと、カフェインが効きやすい体質の人はその自覚があり最初からカフェインを避けているので、習慣的カフェインユーザーとしてピックアップされにくい、という説もあります。

現実的な落としどころ

連用によって耐性が付こうが、中止による不眠改善のエビデンスがはっきりしてなかろうが、カフェインが覚醒作用のある物質であることは事実なので、不眠で凄く困っているならば極力摂らない方がいいのではない? と個人的には思っています。

一方で、カフェインは我々の文化に深く根付いています。外で飲食したり、訪問先でお茶を出してもらったりするときにカフェインを避けるのは難しいものです。味の好みとしてカフェイン飲料が好きな人も多くいることでしょう。徹底してカフェインを避けることで日々の生活における幸福度が下がるならば、それはそれでよくないことです。

そういうわけで、不眠の人におけるカフェインとの向き合い方として、私からお勧めしたいのは以下の3点です:

  • まったくカフェインを摂らない日を連続で2週間程度設けて、睡眠がよくなるかどうか観察する。
  • その結果、カフェインの睡眠に対する影響はない、もしくは軽いと結論づけられたとしても、日頃のカフェイン摂取量は推奨上限より低めに、200mg程度(コーヒーでいうと2杯程度)にしておき、おやつの時間頃までには飲み終える。
  • カフェインは睡眠に影響しないと判断した場合でも、不眠が悪くなった時はカフェインを減らす方向で調整する。

以上、ご参考になれば幸いです。

かめさん
かめさん

カフェインが200㎎程度が良い、と言ったけど、その量の根拠は何かあるの?

木花
木花

ないです、すみません! 強いて言えば、「400㎎というのは健康な成人における安全性の上限なのだから、睡眠に問題のある人ではもっと慎重になった方が良いのでは?」という疑念からです。

日中の眠気を減らすためにカフェインを使う場合

私自身、眠気を減らすことを目的として日常的にカフェインを使っている身です。この問題に個人的に取り組み始めてから、かれこれ20年。

その経験と科学的知見から、眠気を減らすためにどうカフェインを使うかについてのお勧めは、ざっくり以下の通りです。

  • 用事のある日は、眠気を除去できる最低限の量だけ、カフェインを摂取することを心がける。
  • 目を覚ましておく必要のない日には、極力カフェイン摂取量を減らす、可能なら休む。
  • どうしても起きておかないとまずい場合(例:重要な会議、疲れている状況での運転)には、一時的にいつもより多量のカフェインを摂ることは許容される。ただし、原則として1日だけにとどめること。

どうしてこのような運用を推奨するかというと、ひとえに「効かせたい時に確実に効かせ、眠気を覚ます」ためです。

より詳しく説明します。

必要最低限だけ摂る理由

カフェインを多く摂るほど、眠気は減りやすくなります。それだけでなく気分が高揚したりとポジティブな効果も出ます。
しかし落とし穴は、「同じ量でカフェインを連用すると、眠気を減らす効果はたった数日で落ちていく」ことです。

基礎知識編からのおさらいですが、睡眠時間を5時間程度までに制限する実験で連日400㎎カフェインを摂っていた群では、実験開始からの3日ほどはプラセボ群よりも客観的な眠気が弱まったものの、4日目以降は、プラセボ群と変わらなくなっていました [6]。他の似たような実験でも同様です。毎日カフェインを続けると、たちまち同じ量では効かなくなってしまうのです。

かめさん
かめさん

同じ量だと効かなくなるんなら、段々量を増やせばいいんじゃない?

ひつじさん
ひつじさん

確かにそれはアリなんです。ただ当然、それだと、際限なく摂取量が増えてしまうので、どこかで食い止めないといけません。

つまり、週の初めには最低限の量から始めて、週末にかけて徐々に増やし、休日にいったんカフェインを休んでリセットを試みる、というのが合理的な解法なのではないかと考えます。(ただし、たった1日休むだけでは元通りにはならないはずです。可能な時にはもっと長期間休むことが望ましいでしょう)

日頃摂っているカフェインの量が増えるほど、「いったん休む」際の離脱症状(倦怠感や頭痛、眠気)が大きくなるので、そういう意味でもカフェインの摂取は目的達成のための最小限にとどめることが安全策です。

私はどうカフェインと付き合っているか

以下、エビデンスもへったくれもない私個人の生活と意見です(というわけで折りたたみます)。

最近の私は、外来診療のある日かつ週の前半には70㎎程度(インスタントコーヒー1杯)のカフェインを朝にとり、後半になるにつれて増やしていき、長距離運転+外来のある土曜日には120㎎くらい(ドリップコーヒー1杯+緑茶1杯)摂る、という感じの運用をしています。

外来診療の無い日には20~50mg程度のカフェイン摂取にとどめ(紅茶や緑茶)、休日は0~20㎎程度のカフェイン摂取(ほうじ茶や少量の紅茶、もしくは最初からノンカフェイン茶)として、なるべくカフェインを休みます。
(前日の睡眠時間や集中したい度合いなどによって多少変動します。また、1日デスクワークの日でも「ここが山場や!」という場合はコーヒーでテンション上げたりもします)

このように基本は節制していますが、出張明けで疲れているけれど空港から自宅まで運転しなきゃというような場合には運転の1-2時間前にコーヒーショップの濃いコーヒー(190㎎くらい)をとったりもします。たまにはそういうものを飲むのも楽しいですしね。

逆に「最近疲れていて睡眠で休めている感じが乏しいな…」と感じる時期には、意識的にカフェインを数日間減らすこともあります。休んだ分、体調がしんどくはなりますが、無理をせず休養優先で乗り切ります。

ひとりひとりのカフェイン感受性や眠気の程度によってどうカフェインを摂るかの最適解は異なってくるわけですが、ひとつのご参考となれば幸いです。

過眠症と診断され薬を飲んでいる人

すでにナルコレプシーや特発性過眠症の病名がついていてモディオダールなど覚醒を促す薬を服用している人の場合は、カフェインについてどう考えれば良いでしょうか?

絶対の正解があるわけではありませんが、私個人の見解を申し上げますと、

過眠症の薬を飲んでいない人と同様に、普通に使ってヨシ!

です。

なぜそうなるのか説明します。

カフェインは過眠症薬と併用禁忌や併用注意に該当しない

以前より使われてきたモダフィニル(商品名モディオダール、以下同様)やメチルフェニデート(リタリン)、ペモリン(ベタナミン)から、最近登場したオベポレクストン(オーゼイフル)やピトリサント(ウエキクス)に至るまで、過眠症治療薬はどれも、カフェインを併用禁忌もしくは併用注意として添付文書に記していません。

カフェインは他の覚醒刺激薬と作用機序が違う

薬剤の作用機序的にもぶつかり合いません。カフェインはアデノシン受容体をブロックする薬。モダフィニルやメチルフェニデート、ペモリンはドパミン系に働きかける薬、オベポレクストンはオレキシン2受容体選択的作動薬、ピトリサントはヒスタミンH3受容体拮抗薬・逆作動薬です。要するに薬の働きかける場所が違います。

ひつじさん
ひつじさん

ただし、覚醒度を上げるという働きは共通している以上、重ねがけをすることで不眠や頻脈など共通する副作用が余計強くなるという可能性はあります。

実際にどう運用するか

というわけで、過眠症とすでに診断がついておりそれに対する薬を処方されている人でも、カフェインを使うことに原則として制限はないと考えます(もちろん個別に事情は異なってくるので、診療している医師と私の見解が異なってくる場合には診療医の意見を優先してください)。

上に書いて来たことも踏まえていただいて、不眠が気になるようなら摂り過ぎない、眠気をあとちょっと減らしたい用途でカフェインを使うなら日頃から体に入れるカフェイン量に気を配る、そんな感じでよろしいのではないかと思います。

まとめ

カフェインは美味しい上に便利な薬物ですが、それだけに気軽に摂り過ぎてしまいやすいです。

  • 意味なく摂り過ぎないように気を付ける
  • 不眠が気になるなら減らしてみる
  • 眠気を減らしたいなら、摂取量は必要最低限に

以上、覚えておいていただければ幸いです!

参考文献

  1. 厚生労働省. 健康づくりのための睡眠ガイド2023. 2024. https://www.mhlw.go.jp/content/001305530.pdf
  2. Winkelman JW, Berkowski JA, DelRosso LM, et al. Treatment of restless legs syndrome and periodic limb movement disorder: an American Academy of Sleep Medicine clinical practice guideline. Journal of Clinical Sleep Medicine. 2025;21(1):137-152. doi:10.5664/jcsm.11390
  3. Burke TM, Markwald RR, McHill AW, et al. Effects of caffeine on the human circadian clock in vivo and in vitro. Sci Transl Med. 2015;7(305). doi:10.1126/scitranslmed.aac5125
  4. Sin CW, Ho JS, Chung JW. Systematic review on the effectiveness of caffeine abstinence on the quality of sleep. Journal of Clinical Nursing. 2009;18(1):13-21. doi:10.1111/j.1365-2702.2008.02375.x(Sin 2009,
  5. Irish LA, Mead MP, Cao L, Veronda AC, Crosby RD. The effect of caffeine abstinence on sleep among habitual caffeine users with poor sleep. Journal of Sleep Research. 2021;30(1):e13048. doi:10.1111/jsr.13048
  6. Doty TJ, So CJ, Bergman EM, et al. Limited Efficacy of Caffeine and Recovery Costs During and Following 5 Days of Chronic Sleep Restriction. Sleep. 2017;40(12). doi:10.1093/sleep/zsx171

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カフェインを便利に使おう!基礎知識編https://yasashi-sleep.com/caffeine_basic/Sat, 19 Sep 2026 08:12:02 +0000https://yasashi-sleep.com/?p=969

カフェインは、覚醒作用のある身近な薬物です。うまく使えば得をします。逆に言えば、使い方を間違えたばかりに損をすることもあります。 快適な睡眠・覚醒ライフを送るために役立つカフェインの使い方について、今回は、最低限の基礎知 ... ]]>

カフェインは、覚醒作用のある身近な薬物です。
うまく使えば得をします。逆に言えば、使い方を間違えたばかりに損をすることもあります。

快適な睡眠・覚醒ライフを送るために役立つカフェインの使い方について、今回は、最低限の基礎知識をお伝えいたします。

この記事の次に実践編も書きますので、よろしくお願いしますね!

なお本記事では、カフェインの効果について、あくまで睡眠・覚醒関係への影響のみに話題を絞らせていただきます。

この記事を書いた人

木花(もっか)

  • 日本睡眠学会総合専門医で研究者です
  • 病気というほどでもないものの、日中に眠くなりやすい&中年になってからは夜に不眠になりやすい方です
  • 眠気対策として大学生の頃にカフェイン乱用気味でしたが、何も考えずに使うと結局居眠りしてしまうことに気がつきました

より詳しくはこちら

なぜ効くか

カフェインは、アデノシンの働きを阻害することによって、薬理作用を発揮します。

アデノシンとは、生き物の体内に普遍的に存在する物質のひとつです。体のあちこちで様々な働きをし、中枢神経においては神経活動を抑制して眠気をもたらす作用をもちます。
だから、アデノシン受容体をブロックする働きを持つカフェインが、眠気を抑える作用を発揮することになるのです。

カフェインとアデノシンの化学構造式の比較
出典:Wikimedia Commons

ちなみに一般的に、飲み物に含まれるカフェイン量の目安は、コーヒー100mlあたり60mg, 紅茶100mlあたり30mg, せん茶や烏龍茶100mlあたり20mgくらいです。(「健康づくりのための睡眠ガイド2023」より)

どれくらい効くか

かめさん
かめさん

コーヒーを飲んでも眠くなるって言う人だっているじゃない?

ひつじさん
ひつじさん

そこは、カフェイン連用による耐性とか単純に眠気が強すぎるとか推測されるところではありますね!
でも、過酷な状況においても、使い方によってはカフェインは効くんです。

ここで、米陸軍の研究機関が2005年に出した論文を紹介します(戦場では眠るどころではない状況も起こるので、こうした研究の需要があるのでしょうね)[1]

対象:48人の若い健康な成人(男性38人、女性10人)。

何をしたか:64時間(!)連続覚醒させたあとに、あらかじめ4群にわけていた被験者に以下のいずれかを投与し、さらに21時間連続覚醒させた。

投与された薬剤:

  • カフェイン600㎎(コーヒーで言うと約1L分と、なかなか大量です)
  • デキストロアンフェタミン20mg (外国では医療用として使われることもある薬剤ですが、日本では覚醒剤取締法上の覚醒剤として規制されています)
  • モダフィニル400mg (ナルコレプシーなどの病気による眠気を減らすためよく使われる薬剤ですが、日本で処方できるのは1日300㎎までです)
  • プラセボ

被験者たちは連続覚醒させられている間、2時間おきに様々な検査を受け、覚醒度を測定しています。

そこからわかったのは、どの薬もプラセボと比較すると投与後数時間は覚醒度が改善しており、しかも、投与2時間~4時間後の時点では、カフェイン投与群の覚醒度は他2剤と大きくはかわらなかったということです。(ただし、カフェインの方が早く効果が切れるようではあります)

つまり使い方によっては、極端な状況での眠気すら、カフェインは改善させるポテンシャルがあります。

かめさん
かめさん

えらく過酷な条件下で、ハードな薬と比較されてますねえ。それでも行けると示されたわけだ

ひつじさん
ひつじさん

ただし、カフェイン600㎎となると、1日あたりの推奨上限400㎎を軽く突破していますし、すでにカフェインに耐性がついていたら思ったように効かなかったり、健康状態や年齢、他の薬剤との相互作用によって思わぬ副作用が出たりするおそれもありますから、この結果を見て安易に真似しないでくださいね…

他にも、「ここまででなくとも、睡眠不足の人にカフェインを投与するとその後の眠気が明らかに減る」ということを示した研究はたくさんあります [2]。
ただし、連日カフェインを摂り続けていると、効果は減っていきます、その話はこの記事の後半で。

カフェインの副作用

本来なら全身のあちこちで働くはずのアデノシンの働きをカフェインが弱めるので、単に眠気だけ減るというわけにはいきません。

大事そうなところをかいつまんで説明しますと…

まず、睡眠に関して特に問題となる副作用は、不眠です。目が覚める薬物が寝る時間になっても体に残っていたら眠りにくくなる、当たり前体操ですね。これに関しては後でさらに説明します。

危なくはないタイプの副作用ですが、利尿作用が個人的には生活面で地味に困ります。
カフェインが不安の引き金になることなんかもありますね。

また、多量に摂取することで嘔吐や下痢、頻脈などを来す可能性があります。血圧を上げるという話も。
重大な副作用としては一度に多量に摂取することで痙攣が生じる場合もあります。

カフェインの大量摂取で死亡した症例は本邦でも報告されていますし [3]、身近な物質だからと言って常軌を逸した量を摂り続けるのはさすがにまずいです。

木花
木花

なお上記の症例報告を読むと、亡くなった方は、夜勤明けに活動し夕方に眠ってからまた夜勤に向かうという、慢性的な睡眠不足が推測される生活を送ってました。

半減期の話:たくさん摂れば影響が残る、遅くに摂っても影響が残る

お酒を飲んだら数時間体に影響が残るように、一度摂ったカフェインはそれなりに長時間体に残ります。
そして、目を覚まさせる働きのあるカフェインが体に残っていると、そのせいで睡眠が妨げられる可能性はあるわけです。

どの程度の時間カフェインが体に残るか考えるには、半減期についての知識が役に立ちます。
この場合の半減期とは、「体内に入った薬の血中濃度が、代謝や排泄などによって半分に減るまでにかかる時間」のことです。

カフェインの半減期は、かなり個人差が大きいです。つまり、すぐに体からカフェインが抜ける人もいれば、長時間残る人もいる。欧州食品安全機関 (EFSA)が2015年に公表した「カフェインの安全性に関する科学的意見書」 [4]ではカフェインの半減期は2~8時間(平均4時間)としています。

例えば半減期が平均的に4時間の人だとしたら、もし朝7時に200mg(コーヒーならカップ2杯ほど)のカフェインを取った場合、4時間後に体に残るカフェインは100㎎相当、8時間後だと50㎎相当、12時間後の夜19時で25㎎相当ということになります。

ChatGPT作成

同じ200㎎でも、摂ったのが午後3時である場合、午後11時にまだ50㎎相当のカフェインが体に残ります。
もし摂る量が400㎎だったら、摂取が朝11時であったとしてもやはり午後11時に50㎎相当のカフェインが体に残ります。

まあ要するに、「たくさん摂れば遅くまで影響が残る、少量摂るのでも時刻が遅ければ影響が出る」ということです。

たくさん摂るほど、夜の睡眠に響きやすい

カフェインと睡眠の関係を見た研究は色々あります。上に書いたように人によってカフェインへの反応にだいぶ違いがあることも手伝ってか「この量だとこの反応!」とがっちり決まっている感じでもありませんが、多く摂るほど夜の睡眠にとってよろしくない結果となる傾向はあります。

研究その1

Gardinerらは、2025年にこんな研究の論文を出しました [5]。

対象:平均年齢25.3歳の健康な男性23名


何をしたか:3週間ほどの実験期間で、同じ被験者に、48時間ほど実験間隔を空けながら複数の条件を順番に経験してもらいました。100mgもしくは400㎎のカフェイン、もしくはプラセボをそれぞれ就寝12時間前、8時間前、4時間前のどこかで摂取させ、その後の睡眠を測定するというものです。


結果:カフェイン100㎎の場合は、就寝4時間前の摂取でも睡眠に対する有意な影響は認められませんでした。

一方、カフェイン400㎎の場合は、就寝12時間前の摂取でも、プラセボと比較して深睡眠が平均20.6分減りました。

かめさん
かめさん

じゃあ、間をとって200㎎の摂取だとどうなるんですか?

ひつじさん
ひつじさん

データがないのでわかりませんが、日常的な摂取量であるだけに気になるところですよねえ

研究その2

さて次は、カフェイン摂取量が200㎎だからという理由でピックアップしたわけではないんですが、結果的にそうなりました。
Landoltらによる1995年の研究です [6]。

対象:9人の健康な若い男性(平均年齢 22.4歳)

何をしたか:朝7時10分にカフェイン200mgの入ったカプセルを飲んだ。

結果:その夜に寝る直前、22時55分に採取した唾液から検出されたカフェインはわずかな量のみでした。にもかかわらず、その晩の睡眠時間がカフェインをまったく摂らなかった日と比較して総睡眠時間が平均10.0分減り、寝付くまでの時間も平均10.8分延長していました。また、脳波パワースペクトル密度にも変化が見られました。

かめさん
かめさん

ほう、カフェイン200㎎でも15時間半後の睡眠に影響が出るんだ!

ひつじさん
ひつじさん

ひとつ前に紹介した研究とは手法が違うから単純な比較はできないけどね

推奨は1日あたり400㎎まで、だけど

さて、ここで、厚生労働省による「健康づくりのための睡眠ガイド2023」 [7]を見てみましょう。

1日のカフェインの摂取量合計は400mgを超えないようにしましょう

とはいえ、ここまで説明してきた通り、400㎎より少ない量でも、特に就寝間際に摂れば睡眠に影響が出る可能性は高いわけで、400㎎上限を護っていれば必ず大丈夫とは言えません。

また、400㎎という量は、健康な成人を対象として決められた基準なので、そこにあてはまらない人、例えば睡眠障害がある人が400㎎に同じ基準が適用できるかどうかも、今まで出ている研究からは判断する材料が不十分です。

なお、以下は特に注意が必要な集団です。
高齢者:カフェインの代謝が落ちます。
妊婦さん:カフェイン半減期が非妊娠時よりも延長します。
子ども:体重あたり1mg~3mg/kg (体重30kgなら3mg/kgで90㎎)を超えるカフェインをとると睡眠に影響が出ると言われています。

400㎎は、あくまでひとつの目安ということです。

毎日同じ量を使うと効かなくなる:耐性の話

カフェインを効果的に使うためには、耐性について知ることも重要です。

カフェインを毎日続けて摂ると、耐性がついて効かなくなっていくことがわかっています。

例えば耐性の結果として、夜の睡眠に対するカフェインの悪影響が減ってくると報告している研究があります [8]。まあこれだけなら別に悪いことじゃないですね。

問題は、カフェインが日中の眠気を抑える効果も、カフェインを連日使うことによって抑制されてくる場合です。

Weibelらは、2020年に出した論文で、1晩8時間ベッドにいるという、睡眠時間は取れている前提の条件で以下の条件を比較しました [9]:

  • 10日間1日450㎎のカフェインを摂り続けた場合
  • 10日間プラセボを摂り続けた場合
  • 最初の8日間は1日450㎎のカフェイン、最後の2日はプラセボを摂らせた場合

20人の健康な男性の被験者が、それぞれ上記全部の条件を経験した形です。

その結果、9日目の測定では、主観的な眠気と客観的な眠気はどちらも、カフェインを摂り続けた場合とプラセボの間で有意な違いは認められませんでした。8日間カフェインを摂り続けたのに急にプラセボになった場合だけが、どちらの眠気も増えていました。

つまり、カフェインを摂り続けていると、摂っていない時と結局眠気の違いがなくなってしまうみたいなんですね。(しかも、急にやめるとむしろ眠気がきつくなる)

カフェインを単回投与する条件の実験ではおおむね良好に眠気が抑制される [2]のに、あまりにも結果が変わってきます。
この違いが耐性から来るものではないかと推測されるわけです。

実社会での使い方に近い条件での実験

さらに、ふだんの生活に近い条件でのカフェイン連日投与についても見てみましょう。Dotyらが2017年に出した論文です [10]。

1日5時間睡眠の人たちにカフェインを摂らせ続けるとどうなるか

対象

18〜39歳の健康な成人48名(カフェイン群24名、プラセボ群24名)

何をしたか

まずは、5日間、カフェインやアルコールを禁止した上で1日10時間被験者たちをベッドに入らせ、その状態でのパフォーマンスを測定しました。

その次の晩から5日間連続で、ベッドにいられるのは一晩5時間までとして、現実世界での睡眠不足に似た状況を作りだしました。その間、カフェイン群の人達には、朝8時に200㎎、昼200㎎のカフェインを摂らせています。

さらにその次の3日間は、カフェインは無しとし、一晩8時間ベッドに入れるようにし、回復睡眠をとれるようにしました(5日間働いたあとの3連休みたいですね!)

結果

最初の2,3日は、カフェインを投与された群の方が、注意を維持する力や、暗い部屋でじっとしていても眠らないでいる力は保たれていました。すなわち、カフェインを摂ってる方が客観的な眠気は弱い状態でした。

しかし、4,5日目には、カフェイン群とプラセボ群で、その差はなくなりました。

そしてカフェイン投与終了後の回復期間には、3日間ともカフェイン群の方が、プラセボ群より客観的な眠気が強いという結果でした。

ひつじさん
ひつじさん

つまり、せっかくカフェインを摂って頑張ろうとしたのに、数日で効きが鈍る上に、カフェインをやめた時にかえってつらくなっちゃう

他の似たような研究 [11]とも比べてみると、このような共通点がありました。

  • 睡眠制限を何日も続けると、カフェインを飲んでいても主観的な眠気(自覚している「眠いな」という感覚)はカフェイン抜きと同じように蓄積する。
  • 客観的な眠気に対して、最初の3日くらいはカフェインは効果があるが、その後はあまりカフェイン抜きと違いがなくなる。
  • 覚醒を保つ力や集中力など、測定される能力によって、どの程度カフェインの効果が続くかは異なる。
ひつじさん
ひつじさん

まあつまり、睡眠不足が続いているのにカフェインを使い続けても、睡眠不足は帳消しにできないよ…という感じ

かめさん
かめさん

同じ量だと効きにくくなるなら、どんどんカフェインを増やせばいいんじゃない?

ひつじさん
ひつじさん

副作用が出やすくなるし、離脱症状もよりきつく出るよー

カフェインの摂取量を増やすほど、いざ抜いた時の離脱症状が出やすくなります。症状としては、頭痛や倦怠感、眠気が代表的です。[12]

まとめ

  • カフェインを単回摂取する研究では、強力な覚醒効果が観察されている。
  • 1日あたりのカフェインの推奨摂取上限は400㎎までとされているけれど、摂る時間帯によってもカフェインの残り具合は異なってくる。
  • 睡眠時間が足りない状況だと、連日カフェインを摂っていても3日程度で客観的な眠気に対する効果が鈍ってくる。
  • カフェインが抜ける時に離脱症状が出ることも忘れないで。

さて次の記事では、これらの知識をもとに、「では実際に日常生活で何を心がけてカフェインを使うと便利か?」という話をしていきたいと思います。

(2026.10.13 追記)実践編、書きました!

カフェインを便利に使おう!実践編

参考文献

  1. Wesensten NJ, Killgore WDS, Balkin TJ. Performance and alertness effects of caffeine, dextroamphetamine, and modafinil during sleep deprivation. Journal of Sleep Research. 2005;14(3):255-266. doi:10.1111/j.1365-2869.2005.00468.x
  2. Irwin C, Khalesi S, Desbrow B, McCartney D. Effects of acute caffeine consumption following sleep loss on cognitive, physical, occupational and driving performance: A systematic review and meta-analysis. Neuroscience & Biobehavioral Reviews. 2020;108:877-888. doi:10.1016/j.neubiorev.2019.12.008
  3. 高山みお, Waters B, 原健二, 柏木正之, 松末綾, 池松夏紀, 久保真一. カフェイン飲料・製剤の過剰摂取によるカフェイン中毒事故の1剖検例. 日本アルコール・薬物医学会雑誌. 2016;51(3):228-233.
  4. EFSA Panel on Dietetic Products, Nutrition and Allergies (NDA). Scientific Opinion on the safety of caffeine. EFS2. 2015;13(5). doi:10.2903/j.efsa.2015.4102
  5. Gardiner CL, Weakley J, Burke LM, et al. Dose and timing effects of caffeine on subsequent sleep: a randomized clinical crossover trial. SLEEP. 2025;48(4):zsae230. doi:10.1093/sleep/zsae230
  6. Landolt HP, Werth E, Borbély AA, Dijk DJ. Caffeine intake (200 mg) in the morning affects human sleep and EEG power spectra at night. Brain Research. 1995;675(1-2):67-74. doi:10.1016/0006-8993(95)00040-W
  7. 厚生労働省. 健康づくりのための睡眠ガイド2023. 2024. https://www.mhlw.go.jp/content/001305530.pdf
  8. Reichert CF, Deboer T, Landolt H. Adenosine, caffeine, and sleep–wake regulation: state of the science and perspectives. Journal of Sleep Research. 2022;31(4):e13597. doi:10.1111/jsr.13597
  9. Weibel J, Lin YS, Landolt HP, et al. Caffeine-dependent changes of sleep-wake regulation: Evidence for adaptation after repeated intake. Progress in Neuro-Psychopharmacology and Biological Psychiatry. 2020;99:109851. doi:10.1016/j.pnpbp.2019.109851
  10. Doty TJ, So CJ, Bergman EM, et al. Limited Efficacy of Caffeine and Recovery Costs During and Following 5 Days of Chronic Sleep Restriction. Sleep. 2017;40(12). doi:10.1093/sleep/zsx171
  11. Baur DM, Lange D, Elmenhorst EM, et al. Coffee effectively attenuates impaired attention in ADORA2A C/C-allele carriers during chronic sleep restriction. Progress in Neuro-Psychopharmacology and Biological Psychiatry. 2021;109:110232. doi:10.1016/j.pnpbp.2020.110232
  12. Juliano LM, Griffiths RR. A critical review of caffeine withdrawal: empirical validation of symptoms and signs, incidence, severity, and associated features. Psychopharmacology. 2004;176(1):1-29. doi:10.1007/s00213-004-2000-x

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非専門医のための☆今さら聞けない、RLSに対するプラミペキソールの使い方https://yasashi-sleep.com/rls_pramipexole/Fri, 14 Aug 2026 08:58:45 +0000https://yasashi-sleep.com/?p=1212

レストレスレッグス症候群(RLS、むずむず脚症候群)は珍しくない病気です。日本人の有病率は1-3%と言われており [1]、つまりは百万人規模の患者が本邦に存在します。この全てを睡眠専門医が治療することは現実的ではありませ ... ]]>

レストレスレッグス症候群(RLS、むずむず脚症候群)は珍しくない病気です。日本人の有病率は1-3%と言われており [1]、つまりは百万人規模の患者が本邦に存在します。この全てを睡眠専門医が治療することは現実的ではありません。

ただ、RLSを本邦で治療する際に重要な薬剤であるプラミペキソール(商品名ビ・シフロール)は、ふだんドパミン作動薬に馴染みのないドクターにとっては、処方のハードルが高く感じられるのではないでしょうか。あるいは、RLSに対する使用経験はあったとしても、遭遇するRLS患者の数が少ないがために、個人的な知見が蓄積されにくいのではないでしょうか。

プラミペキソールは、使い過ぎないことさえ押さえておけば、そこまで怖くはない薬です。
この記事では、これまでRLSに馴染みがなかった非専門医でも安全にRLS診療ができる一助となることを目的として、プラミペキソールを使う上で役に立つ前提知識やTIPSを説明していきます。

この記事を書いた人

木花(もっか)

  • 日本睡眠学会総合専門医
  • 睡眠医療の世界に入ったのは2010年、RLSに対するプラミペキソールが日本で認可されたのと同じ年です。
  • これに作成委員として加わらせていただいておりますが、本稿の内容は所属組織や団体とは無関係な個人の見解です。

より詳しくはこちら

忙しい人のためのまとめ
  • 日本のガイドラインでは、RLSに対してドパミン作動薬はα2δリガンドと並ぶ第一選択薬。
  • α2δリガンドを使うことに対する添付文書上の縛りなどから、依然としてプラミペキソールには使うべき理由やメリットがある。
  • Augmentationを警戒して、RLSに対するプラミペキソールは0.25mg/日程度までにしておくこと。

なぜ、いま敢えてプラミペキソールの話?

RLS診療に興味のある方なら既にご存じのことでしょうが、RLS診療において、プラミペキソールに代表されるドパミン作動薬の位置づけは徐々に後退してきています。

それでもプラミペキソールは未だに、日本でRLSを診療するならば避けて通れない薬です。まずはそのあたりの事情を解説していきます。

ドパミン作動薬の位置づけ

米国睡眠医学会が2025年に出したRLS診療ガイドラインでは、RLSに対して推奨されている介入はまずガバペンチンエナカルビルなどのα2δリガンドや鉄補充が来て、プラミペキソールなどのドパミン作動薬は、まとめて「条件付き非推奨」のカテゴリーに入れられています [2] 。

一方、2024年に日本神経治療学会が出した「Restless legs症候群診療ガイドライン」では、「中等症以上RLS患者における薬物治療ではdopamine agonistを使用することを推奨する」(CQ3より)と記されており、推奨の強さはα2δリガンド(例:ガバペンチンエナカルビル)と同等です [1]。

なぜ、米国ではどちらかと言えば推奨されていないドパミン作動薬が日本では推奨されているのか。その理由として、それぞれの国における治療の歴史が大きくかかわっているのではないかと私は想像しています。

米国におけるRLS診療の歴史

米国ではRLSを治療するために1980年代にはレボドパが使われており、1990年代にドパミン作動薬へと徐々にシフトしていきました。RLS診療・研究に携わる外国の先生方の語りを聞いていると、どうやら当初は魔法の薬のようによく効くものとして受け入れられ、さかんに使われたようです。ところが1996年にaugmentationが初めて体系的に報告されました [3]。

Augmentationとは:ドパミンやドパミン作動薬を使ってきたRLS患者において、治療開始前よりも症状が増悪してしまうという現象です(詳しい症状や対処法は、論じると長くなるので文献1など他の資料をご参照ください)。
厄介なのはこの現象を認識していないと、出現した時に単に「薬の効きが悪くなった」という認識になり、際限なく薬が増量されがちなことです。それでも薬が効いているうちはまだ良いのですが、やがてはかなりの量の薬を使っているのにRLS症状がコントロールできていない、という本人にも医療者にも苦しい展開につながりかねません。

どうやらaugmentationが広く知られるようになる前の米国では、RLSに対するドパミン作動薬が今より高用量で使われがちだったようです。そして、用量が多いほど、augmentationが生じるリスクは上がります。

ひとたびaugmentationが生じたらなかなか対処が難しいので、RLSを診療する医師にとってaugmentationとは、遭遇する覚悟は常にしつつもできる限り出くわしたくない相手だったりします。そのように厄介な副作用が、「とてもよく効く薬」のはずだったドパミン作動薬使用につきまとうものであった、この事実が、当時診療に当たっていた先生たちには衝撃だったであろうことは想像に難くありません。

一方、日本では

日本でRLSに対してプラミペキソールが認可されたのは2010年。だいぶ遅れてのスタートです。私の記憶では、認可当初の時期には1日0.5mg程度のそれなりに高用量なプラミペキソール使用を目撃することが何度かありましたが、数年くらいでそのようなことはだいぶ減り、低用量でのプラミペキソール使用が徹底していったように思います。

当時も今も、学会などでRLSに関する講演を聞く度に、augmentationに対する警鐘が必ずセットでついてきている印象があります。
おそらく日本の睡眠医療業界では、プラミペキソール認可当初からaugmentationへの警戒感があり、プラミペキソールは低用量で使うようにという啓発をさかんにやってきたのでしょう。その結果として、日本の現場では、augmentationがそこまで頻繁には遭遇しない事象となっていったのではないでしょうか。

この推測の裏付けとなる研究を紹介します。
2004年から2013年にかけて日本の睡眠専門医療機関でRLSと診断され治療された患者231名の記録を後方視的に分析したものです [4] 。この研究では、平均48か月の治療期間でaugmentationの発生率は9.1%でした。これは、プラミペキソールによるaugmentationが3割から4割と報告してきた米国での研究よりは遥かに低い [5-7] 一方、ヨーロッパでの先行研究とは同程度の数字です [8-9]。この違いの背景として重要なのは治療薬の用量なのではないかとこの論文は論じています 。

Takahashiらの論文で紹介されていた文献を中心にまとめるとこんな感じで、プラミペキソールの使用量が多い方がaugmentationの発生率が増えるように見えます(スマホで見ると煩雑になるので畳みます)

著者年調査国Pramipexoleの使用量Augmentation発生率備考
Ferini-Strambi L.[8]2002イタリア66%の患者で0.25 mg/日が最適治療用量8.3%60名の連続症例を対象としたオープンラベル試験。投与開始後4〜15週以内に発生した。
Takahashi M, et al.[4]2017日本平均 0.262 ± 0.119 mg/日(範囲: 0.031–0.750 mg)9.1%日本人患者231名を対象とした後方視的調査。0.375 mg/日が予測のカットオフ値とされた。
Högl B, et al.[9]2011欧州9カ国最適化された用量(0.125–0.75 mg/日)9.2%331名を対象とした26週間の二重盲検比較試験。プラセボ群の発生率は6.0%であった。
Winkelman JW & Johnston L.[5]2004米国最終観察時の平均投与量は 1.28 ± 1.1 mg/日32%59名の患者を対象とした後方視的レビュー。平均21.2ヶ月の追跡調査。
Silber MH, et al.[6]2003米国中央値 0.38 mg(安定期)→ 0.63 mg(調査終了時)33%60名の患者を対象とした平均27.2ヶ月の追跡調査。発生リスクは開始2.5年以降に低下した。
Lipford MC & Silber MH.[7]2012米国中央値 0.38 mg(初期)→ 1.0 mg(調査終了時)42%平均8年間の長期追跡調査。全症例が開始4.1年以内に発生しており、それ以降の新規発生はなかった。

なぜα2δリガンドだけでは不十分なのか

ドクター
ドクター

米国でも日本でも、今やガイドライン上今はα2δリガンドが第一選択薬として扱われているのであれば、そちらを使えば良いだけなのでは?

正論です。レセプト的に問題ないようであれば、drug naiveなRLSの患者さんにまずはα2δリガンドを使う、大いにアリです。
しかし、RLSに対してα2δリガンドを常に第一選択とするわけにもいかない大きな問題が1つと、敢えてプラミペキソールを使うことによる相対的なメリットが2つあります。そこを解説します。

大きな問題:添付文書上の縛りがある

2026年8月現在の日本で、RLSに対して唯一保険適応のあるα2δリガンドは、ガバペンチンエナカルビル(商品名:レグナイト)です。なおその他のα2δリガンドについては、本記事では論じません。

ところが、ガバペンチンエナカルビルの製剤である「レグナイト300㎎」の添付文書には、このように記されています(強調筆者):

5. 効能又は効果に関連する注意

5.1 レストレスレッグス症候群(下肢静止不能症候群)の診断は、国際レストレスレッグス症候群研究グループの診断基準及び重症度スケール(IRLS(International Restless Legs Syndrome Rating Scale))に基づき慎重に実施し、基準を満たす場合にのみ投与すること。

5.2 本剤は、原則、ドパミンアゴニストによる治療で十分な効果が得られない場合、又はオーグメンテーション(症状発現が2時間以上早まる、症状の増悪、他の部位への症状拡大)等によりドパミンアゴニストが使用できない場合に限り投与すること。国内臨床試験において主要評価項目である治療期最終時点におけるIRLS合計スコアの変化量ではプラセボ群との差は認められていない。

つまり、添付文書を素直に解釈すると、先行してドパミン作動薬を使用した後でない限りはガバペンチンエナカルビルの投与は正当化されない、ということになります。

そして、相対的なメリットとはどのようなものかと言いますと:

メリット1:診断的治療として使える

また、プラミペキソールは診断的治療にも使えます。「RLSらしく見えるけれども、RLSらしい症状を引き起こす他の病気もあったりして診断が今一つ疑わしい人に、とりあえずプラミペキソールを投与してみて効果が出るか見てみる」という方法です。プラミペキソールがてきめんに効けば、かなり本物のRLSらしくなります。

メリット2:切れ味が良い

私の印象ではありますが、プラミペキソールはガバペンチンエナカルビルと比べて、速やかに症状をしっかり改善してくれる感じがあります。ですから、症状が強くて日常生活に支障が出ており、早く症状を改善させたい場合に便利です。もちろん、augmentationの可能性に気を付けながら使うことにはなります。

ひつじさん
ひつじさん

まとめると、
・実務的にα2δリガンドを初手で出しにくい
・効果面で頼りになる
の2点です。

なお、RLSに対して適応のあるドパミン作動薬として他にロチゴチンパッチがあるやん…?というツッコミを思い浮かべている方もいらっしゃるかもしれませんが、あちらは貼付剤である関係で、プラミペキソールとだいぶ色々と使い心地が違い、そこまで語ると長くなるので、今回は論じていません。
併存疾患のない特発性RLSの成人に対する初手のドパミン作動薬なら、プラミペキソールでまず問題ないと思います。

プラミペキソール処方の実際

用法、用量

添付文書上は0.75mgまで使えますが、使用量が多ければ多いほどaugmentationを招きやすくなります。0.125mgより開始し、通常は0.25mgまで、どんなに多くても0.375mgまでと考えておきましょう(上で紹介したTakahashiらの論文 [4] では、0.375mgを超える使用でaugmentationのリスクが高まるとしています)。

0.25mgまで増やした時点で症状コントロールが不十分なら、私なら、RLSを増悪させる薬剤や病態がないかなど再確認の上、レグナイトの追加などプラミペキソール増量以外の手段を検討しますが、非専門医の先生だとその時点で専門医への紹介をご検討いただいて構いません(どんどん薬が増えて泥沼になった状態で送られてくるよりよほどマシ)

添付文書にあるように、プラミペキソール内服は就寝2時間前でよろしいです。重要なのは、寝る時に薬が十分効いていることです。

ただ、患者さんによっては、「寝る2時間前」という中途半端な時間に飲み逃したら「その晩はもう飲んではいけないかな」と解釈する人もいるようなので、「もし飲み忘れたら、寝る前に気づいた時点で飲んでもらって構いません」と私は説明しています。

なお、もし可能であれば、治療開始時に(プラミペキソールなどの薬剤開始と前後してかまわないので)鉄欠乏の有無や必要に応じての鉄補充も検討いただきたいというのはあります。

以前に書いた、RLSと鉄欠乏、検査値の解釈についての記事も、よろしければご参照ください。

RLSと鉄について真面目に考えてみた

副作用

「衝動性の増加」や「突発的睡眠」がプラミペキソールの(というかドパミン作動薬全般の)副作用としてインパクトが強いですが、0.125~0.25mg程度だと正直そう心配しなくていいんじゃないかと私は思っています。

自験例ではADHDもあって衝動性が問題になってきた人でプラミペキソールをオフにしてガバペンチンエナカルビルに切り替えた経験はありますが、衝動性の原因が本当にプラミペキソールだったのかはわかりません。傾眠も、実際に生活に支障が出るほどの問題になった人と遭遇した覚えがありません。
もちろん、忘れて良いという意味ではないですし、必要に応じての注意喚起もすべきですが、極端に恐れるほどでもないのかなというところで。

低用量でも比較的問題になりやすい副作用は嘔気です。これが原因でプラミペキソールを断念した場合もなくはないです。
嘔気に関しては、「もし出ても、1週間くらい続けて飲んでいれば改善することがほとんどです」と説明しています。

他に怖いのはやはりaugmentation. 患者さんにも、「この薬はよく効くけど、たまに、薬を飲む前よりも症状が強くなるという困った副作用が出てしまうことがある。それは薬の量を増やすと出やすくなる」と折に触れ注意喚起をしています。

ただまあ、プラミペキソール0.125mg~0.25㎎程度なら、実際augmentationが生じたとしても、他の薬に切り替えつつプラミペキソールは漸減させるという方法が取りやすいのは安心材料です。これもまた、薬の量を増やし過ぎないメリットです。

指導上の小ネタ

他に、私がプラミペキソールを初回処方する時に、必ず説明するようにしていることがあります。

「この薬をネットなどで調べた時、『パーキンソン病の薬』と出てきてびっくりするかもしれません。でも、あなたがパーキンソン病だと思ってこの薬を処方するわけではありません。あなたはたまたま同じ薬が効く別の病気で、使う量も、パーキンソン病に対して使うよりも8分の1程度の少なさです」

パーキンソン病とRLSの共通点とか細かいところを無視している話ではありますが、要は、「パーキンソン病の薬として出しているわけではない」とわかってもらうことがポイントです。
この説明をたまたま忘れて処方した時に、「調べたら怖かったから飲みませんでした」のようなことを次の外来で言われたことが複数回あるんです…。

ガバペンチンエナカルビルがお勧めの場合

このあたりはかなり私見ですが、プラミペキソールよりもガバペンチンエナカルビルを積極的に選びたい場合は以下のどれかかなと思っています。

  • 若年者 (その後の長い人生、ずっとドパミン作動薬を使わせることを考えるとぞっとしない)
  • もともと軽めの症状で安定している人(augmentationはやはり怖いし、他の副作用の怖さも多少あるので、ガバペンチンエナカルビルでいけるならその方が良い)
  • 向精神薬、特にドパミン受容体に作用する薬を使っている人(すでにドパミン受容体遮断薬を処方されている人だと、本当はそれをやめてもらうのがRLS改善の近道のような気もしますが、時系列的に因果関係がはっきりしているわけでもない、かつ本人も必要と認識している薬だと切れと言いづらかったりします。そういう人で、プラミペキソールからガバペンチンエナカルビルに変更したらてきめんにRLS症状が改善したケースを経験しています)。

どんなケースなら紹介すべき?

以下の場合は、詳しくない先生が一人で抱え込む必要は全然ないと個人的には思っております。

  • プラミペキソール0.25mgまで増やして、生活や睡眠に支障の出るRLS症状が続いている
  • augmentationを疑っている(augmentationであるかどうかの判定まで専門医の仕事!)
  • 妊婦や子どもなど特殊な患者、かつ自信がない(産婦人科や小児科の先生で自力で対処できるならもちろんそれでアリです)。
  • 重篤な腎機能障害がある(特に慢性腎臓病だとRLSを合併しがちなのに薬の選択肢が限られてくる)
  • その他、困っている

なお、どのあたりからコントロール不良と考えるかですが、RLS症状をゼロにすることを目指す必要は別になくて、症状のせいで患者さんの生活や睡眠に支障がほとんどない状態ならそれでいいんじゃないかな…と私は考えております。どんどん薬を増やさないためにも、そのくらいに構えておいた方がよろしいです。

まとめ

RLSは見過ごされがちでありつつも、患者さんのQOLを脅かしがちな病気です。
でも、適切な対処をすれば大部分の人では症状コントロールはそう難しくありません。
必要そうな状況なら、正しく恐れながらプラミペキソールを使ってみましょう。

参考文献

  1. 日本神経治療学会 編.標準的神経治療:Restless legs症候群診療ガイドライン(2024). 神経治療学. 2024;41(2):129–76.
  2. Winkelman JW, Berkowski JA, DelRosso LM, Koo BB, Scharf MT, Sharon D, et al. Treatment of restless legs syndrome and periodic limb movement disorder: an American Academy of Sleep Medicine clinical practice guideline. Journal of Clinical Sleep Medicine. 2025 Jan;21(1):137–52. https://doi.org/10.5664/jcsm.11390
  3. Allen RP, Earley CJ. Augmentation of the Restless Legs Syndrome With Carbidopa/Levodopa. Sleep. 1996;19(3):205-213. doi:10.1093/sleep/19.3.205
  4. Takahashi M, Nishida S, Nakamura M, et al. Restless legs syndrome augmentation among Japanese patients receiving pramipexole therapy: Rate and risk factors in a retrospective study. Romigi A, ed. PLoS ONE. 2017;12(3):e0173535. doi:10.1371/journal.pone.0173535
  5. Winkelman JW, Johnston L. Augmentation and tolerance with long-term pramipexole treatment of restless legs syndrome (RLS). Sleep Medicine. 2004;5(1):9-14. doi:10.1016/j.sleep.2003.07.005
  6. Silber MH, Girish M, Izurieta R. Pramipexole in the Management of Restless Legs Syndrome: An Extended Study. Sleep. 2003;26(7):819-821. doi:10.1093/sleep/26.7.819
  7. Lipford MC, Silber MH. Long-term use of pramipexole in the management of restless legs syndrome. Sleep Medicine. 2012;13(10):1280-1285. doi:10.1016/j.sleep.2012.08.004
  8. Ferini-Strambi L. Restless legs syndrome augmentation and pramipexole treatment. Sleep Medicine. 2002;3:S23-S25. doi:10.1016/S1389-9457(02)00144-2
  9. Högl B, Garcia-Borreguero D, Trenkwalder C, et al. Efficacy and augmentation during 6months of double-blind pramipexole for restless legs syndrome. Sleep Medicine. 2011;12(4):351-360. doi:10.1016/j.sleep.2010.12.007

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なぜ睡眠・覚醒相後退障害に対してラメルテオンを少量で使うの?~2026年版~https://yasashi-sleep.com/ramelteonfordswpd2026/Sun, 19 Jul 2026 09:02:04 +0000https://yasashi-sleep.com/?p=1174

今回の記事は、2023年にnoteで書いた記事を、特に患者さんおよびその関係者の方を想定読者として書き直したものです。 ラメルテオン(商品名ロゼレム)は、1錠8㎎の薬剤です。しかし、睡眠医療の現場では、睡眠・覚醒リズム障 ... ]]>

今回の記事は、2023年にnoteで書いた記事を、特に患者さんおよびその関係者の方を想定読者として書き直したものです。

ラメルテオン(商品名ロゼレム)は、1錠8㎎の薬剤です。しかし、睡眠医療の現場では、睡眠・覚醒リズム障害がある人に対して、1/2錠(4mg) や1/4錠(2mg)、時にはそれ以下という低用量で処方する場合がよくあります。

どのような根拠でこの使い方がされているのでしょうか。

なお、この記事では、最新の分類に従って睡眠・覚醒相後退障害と呼びますが、以前は睡眠相後退症候群と呼ばれていた病気のことです。

この記事を書いた人

木花(もっか)

  • 日本睡眠学会総合専門医、博士(医学)
  • かれこれ10年以上、睡眠・覚醒相後退障害の人を日常的に診ており、ラメルテオンもよく使います。

→より詳しくはこちら

忙しい人のためのまとめ
  • 慢性不眠症に対してはラメルテオンは8㎎で効果あるとされている。しかし、睡眠・覚醒相後退障害は慢性不眠症とは重なる部分もあるものの違う病気なので、慢性不眠症の人を対象とした実験のデータは睡眠・覚醒相後退障害の人たちにそのままは当てはめられない。
  • ラメルテオンは体内でメラトニンというホルモンに近い働きをする。諸外国の研究で、睡眠・覚醒相後退障害に対してメラトニンの内服薬を使う場合には低用量が良いという知見が積み上がっている。
  • 実際、ラメルテオンの用量が8㎎よりは4㎎以下の方が睡眠・覚醒相後退障害に効果がありそうということを支持する研究がいくつかある。

なぜ、添付文書上は1回8㎎使うことになっているのか

この薬を開発した武田薬品によるロゼレムの添付文書には、「通常、成人にはラメルテオンとして1回8mgを就寝前に経口投与する。」とあります。
なぜ、そう決まったのでしょうか。それは、開発時の臨床試験からです。

武田薬品のページに置かれているインタビューフォームを読みとくと、慢性不眠症患者を対象とした臨床試験において、8mgと比べて4㎎では一貫した有効性が示されなかったということがわかります。

では、4㎎、2㎎などと量を減らしてラメルテオンを使うのは、すでに得られたエビデンスに反する意味のないことなのでしょうか? そういうわけではありません。ここで我々が問題にしているのは睡眠・覚醒相後退障害という、慢性不眠症とは微妙に違う疾患であるからです。

睡眠・覚醒相後退障害の人の多くは慢性不眠症です。しかし、慢性不眠症の人の多くは睡眠・覚醒相後退障害ではありません。

イメージ図

ここで、両者の有病率を比べてみましょう。睡眠・覚醒相後退障害の有病率は、10代後半から20代の若い人のみを対象とした研究では有病率が3-4%あたりになることが多いですが [1,2], 60歳前後までを対象とした調査では、有病率が 1%よりも低いです [3,4]。一方、睡眠障害国際分類第3版改訂版によると、慢性不眠障害の有病率は人口の約10%と、睡眠・覚醒相後退障害よりはだいぶ多いです [5]。

すなわち、有病率の違いを考慮すると、ラメルテオンの用量を決めるための臨床試験に参加した20歳から64歳(中央値42歳)や20歳から84歳(中央値50歳)の慢性不眠症の方々の中に、慢性不眠症と一緒に睡眠・覚醒相後退障害を併せ持っていた人は、いたかもしれませんが少数派であっただろうと推測できます。

したがって、慢性不眠症の患者に対してラメルテオン8mgが最適という結果が臨床試験で出ていたとしても、睡眠・覚醒相後退障害の患者に同じ結果が当てはめられるとは限りません。

なぜ、睡眠・覚醒相後退障害のある人にラメルテオンを処方するのか

なぜ、ラメルテオンが睡眠・覚醒相後退障害の治療に効くだろうという発想がされるようになったのでしょうか。それは、ラメルテオンが「メラトニン受容体作動薬」であるためです。

メラトニンは、「夜が来たことを体に伝えるホルモン」と言われます。眠る時刻の2-3時間前から分泌され、夜間に分泌量がピークに達し、明け方にかけて下がっていくという性質をもっています。睡眠・覚醒相後退障害の患者さんでは、体内でのメラトニン分泌時刻が多数派の人より遅くなっている場合が多く、それが強い夜型となる一因であるとされています。

このメラトニンを内服薬としたものが、欧米の多くの国では処方箋なしで入手できるほど普及しており、特に米国ではすでに30年以上流通しています。さまざまな睡眠の病気に対するメラトニンの効果も多くの研究で検証されてきました。
その結果として、多くの国ではメラトニンの内服薬が、睡眠・覚醒相後退障害の患者が寝付く時刻を早くするためによく使われてきました [6]。米国睡眠医学会から出ている診療ガイドラインにおいても、睡眠・覚醒相後退障害患者に対してメラトニンが「弱く推奨」されています [7]。

しかし日本では、長い間メラトニンの内服薬は販売されていませんでした。(2020年よりようやく処方可能な薬となりましたが、それでもこの原稿を書いている時点では、神経発達症がある6歳以上16歳未満に処方対象が制限されています)

つまり、日本の睡眠診療の現場において、長らくメラトニンは使いたくても使えない薬でした。私自身は経験していませんが、どうしてもメラトニンを使いたい場合に患者さんに個人輸入してもらう場合もあったと聞きます。

そんな状況の中で、2010年から日本で使えるようになったメラトニン受容体作動薬が、ラメルテオンでした。メラトニン受容体作動薬とは、ざっくり言えば、体の中でメラトニンと似たような働きをしてくれる薬ということです。

使いたくてもなかなか使えないメラトニンに替わる役割が、処方薬として比較的使いやすいラメルテオンにこの国において期待されたのは自然な流れと言えるでしょう。

なぜ、ラメルテオンを4mg以下で処方するのか

もともと睡眠・覚醒相後退障害に対して処方されるメラトニンは、3~5㎎ほどでした [6]。しかし、研究が進むうちに、0.3mg~0.5㎎程度の少ない量でも夜型の人達を早くに眠らせられる効果があること [8]、むしろ投与量が多いと翌朝になお体内に残るメラトニンのせいで結局早起きが難しくなる場合があることすらわかってきました [6]。

それを受けて、メラトニン受容体作動薬であるラメルテオンに関しても、少ない量の方がリズムの調整にはむしろ効果的かもしれないという発想が出てきたのだと思われます。

ここで、ある研究を紹介します。
この研究では、75名の健常な成人を6日間、薄暗い実験室に滞在させ、その間、普段よりも5時間早い時間に寝床に行かせました。
そうして滞在2晩目以降、就寝30分前にあらかじめ決めておいた量のラメルテオンを飲ませて、飲ませた量によって体内時計がどのくらい朝型へ傾くかを比較しました。飲ませたラメルテオンの量は、0mg(プラセボ)、1mg, 2mg, 4mg, 8mg の五種類でした。
その結果、8㎎のラメルテオンを投与された人は、約28分しか体内時計が早まらず、プラセボと明らかな違いはありませんでした。一方で、1mg, 2mg, 4mgのラメルテオンを投与された人では、約80-90分とプラセボと比べて明らかに体内時計が早まりました。
これが、8mgよりは4mg以下の処方が睡眠・覚醒相障害のある人に対しては望ましいだろうと言われる根拠のひとつです。[9]

さらに、秋田大学のグループによる症例報告もご紹介します。これは、睡眠・覚醒相後退障害のあった15歳の患者に対して、ラメルテオンを8mgで処方していた間は入眠を早める明らかな効果が見られず、4mgに減らしたら急に5-6時間入眠が早まったというものです [10]。この研究もまた、8mgよりは4mg以下を使った方が良いという考えをサポートするものです。

ただ、実際に現場で4mgや2mgのラメルテオンを処方していると、それでうまくいく患者さんもいるのですが、翌日に眠気が出てしまってすっきりしないというケースも珍しくありません。

そこで、23人の睡眠・覚醒相後退障害の患者さんに対して、本人と相談しながら、翌日に眠気が出なくなる程度にまでラメルテオンの処方量を減らしていったという東京医科大学のグループによる研究もあります。この研究では、最終的に中央値で0.571mg(1/14錠)までラメルテオンの処方量を減らしつつ、入眠と覚醒の時刻をラメルテオン服用前より早められました [11]。
すなわち、もしかして4mgや2mgのラメルテオンですら多すぎるのかもしれません。

効果とは別の観点から、ラメルテオンの至適用量を探った研究もあります。神経研究所および睡眠総合ケアクリニック代々木のグループが373名の睡眠・覚醒相後退障害患者の治療継続率について、治療開始時に処方されたラメルテオンの量ごとに分けて後方視的に解析したものです。この研究では、8mg, 4mg, 1mg と比較して、2㎎を処方された人の、ドロップアウト率が最も低かったとしています [12]。
(もっともこの研究における「ドロップアウト」って、ラメルテオンの服用中断、用量の変更、他の睡眠関連薬の追加全てを含んでいるので、「ドロップアウト率が低かった用量ほど症状が改善した」と言えるわけではないです。「眠気が翌朝に出たから処方量を減らした」だけでこの研究だとドロップアウト判定になってしまうので…)

最後に

というわけで、睡眠・覚醒相後退障害に対して、1錠8㎎であるラメルテオンを私も分割したり粉砕したりして処方しがちです。薬剤師さん方の手間を考えると正直気は咎めますが、治療効果を考えると1錠丸ごとというわけにも行かないようなのでそうしています。
2mgくらいの大きさの錠剤があれば量の調整をしやすくて便利になるのにとよく思いますが、なかなか難しいようですね。

なお、ここまで睡眠・覚醒相後退障害にラメルテオンは低用量処方が良いという話をしてきましたが、保険診療の仕組み上は、この病名でこの使い方は、現状で保険の適応外使用となってしまうことはご留意ください。

とは言え、ラメルテオンを使うことによって睡眠相後退の症状が明らかに改善する患者さんたちは実際におり、必要な薬であると感じています。

朝早くから学校や仕事が始まり、遅刻が厳しい目で見られがちなこの世の中において、睡眠・覚醒相後退障害のある人は大変苦労をしている場合が珍しくありません。
睡眠相が後退しているなどリズム障害のある方々にとっての困りごとが少しでも減る一助となるために、ラメルテオンの低用量使用が公的に認められたり使いやすい剤型で発売されたり、他にも効果が期待できる薬の研究がさらに進んだりすることを願います。

参考文献

  1. Sivertsen B, Pallesen S, Stormark KM, Bøe T, Lundervold AJ, Hysing M. Delayed sleep phase syndrome in adolescents: prevalence and correlates in a large population based study. BMC Public Health. 2013;13(1):1163. doi:10.1186/1471-2458-13-1163
  2. Danielsson K, Markstrom A, Broman JE, von Knorring L, Jansson-Frojmark M. Delayed sleep phase disorder in a Swedish cohort of adolescents and young adults: Prevalence and associated factors. Chronobiol Int. 2016;33(10):1331-9.doi:10.1080/07420528.2016.1217002
  3. Yazaki M, Shirakawa S, Okawa M, Takahashi K. Demography of sleep disturbances associated with circadian rhythm disorders in Japan. Psychiatry Clin Neurosci. 1999;53(2):267-268. doi:10.1046/j.1440-1819.1999.00533.x
  4. Schrader H, Bovim G, Sand T. The prevalence of delayed and advanced sleep phase syndromes. Journal of Sleep Research. 1993;2(1):51-55. doi:10.1111/j.1365-2869.1993.tb00061.x
  5. 日本睡眠学会, 監訳. 睡眠障害国際分類 第3版 改訂版 (ICSD-3-TR). 東京: 一般社団法人日本睡眠学会; 2025.
  6. Van Geijlswijk IM, Korzilius HPLM, Smits MG. The Use of Exogenous Melatonin in Delayed Sleep Phase Disorder: A Meta-analysis. Sleep. 2010;33(12):1605-1614. doi:10.1093/sleep/33.12.1605
  7. Auger RR, Burgess HJ, Emens JS, Deriy LV, Thomas SM, Sharkey KM. Clinical practice guideline for the treatment of intrinsic circadian rhythm sleep-wake disorders: advanced sleep-wake phase disorder (ASWPD), delayed sleep-wake phase disorder (DSWPD), non-24-hour sleep-wake rhythm disorder (N24SWD), and irregular sleep-wake rhythm disorder (ISWRD). An update for 2015: an American Academy of Sleep Medicine clinical practice guideline. Journal of clinical sleep medicine. 2015;11(10):1199-236.
  8. Sletten TL, Magee M, Murray JM, et al. Efficacy of melatonin with behavioural sleep-wake scheduling for delayed sleep-wake phase disorder: A double-blind, randomised clinical trial. Peiris D, ed. PLoS Med. 2018;15(6):e1002587. doi:10.1371/journal.pmed.1002587
  9. Richardson GS, Zee PC, Wang-Weigand S, Rodriguez L, Peng X. Circadian Phase-Shifting Effects of Repeated Ramelteon Administration in Healthy Adults. J Clin Sleep Med. 2008;4(5):456-461. doi:10.5664/jcsm.27282
  10. Takeshima M, Shimizu T, Ishikawa H, Kanbayashi T. Ramelteon for Delayed Sleep-wake Phase Disorder: A Case Report. Clin Psychopharmacol Neurosci. 2020;18(1):167-169. doi:10.9758/cpn.2020.18.1.167
  11. Shimura A, Kanno T, Inoue T. Ultra-low-dose early night ramelteon administration for the treatment of delayed sleep-wake phase disorder: case reports with a pharmacological review. Journal of Clinical Sleep Medicine. 2022;18(12):2861-2865. doi:10.5664/jcsm.10188
  12. Takagi S, Sugihara G, Takahashi H, Inoue Y. The optimal dose of Ramelteon for the better treatment adherence of delayed sleep–wake phase disorder: a dropout rate study. Front Neurol. 2023;14:1280131. doi:10.3389/fneur.2023.1280131

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「眠れなくても横になっていればいい」は本当? 睡眠専門医が解説します https://yasashi-sleep.com/layingdownnotasleep/Tue, 30 Jun 2026 08:25:09 +0000https://yasashi-sleep.com/?p=1021

大学受験生の頃に、よく目にしたんですよね。「夜に眠れなくても、横になっていれば体が休まるから大丈夫!」って。今でも時々Xあたりで、同じような意見を見かけます。睡眠医学的には、この話は正しいのでしょうか? というわけで、説 ... ]]>

大学受験生の頃に、よく目にしたんですよね。「夜に眠れなくても、横になっていれば体が休まるから大丈夫!」って。
今でも時々Xあたりで、同じような意見を見かけます。
睡眠医学的には、この話は正しいのでしょうか?

ひつじさん
ひつじさん

結論としては「嘘も方便」

かめさん
かめさん

それって、医学的には間違ってる…ってこと?

ひつじさん
ひつじさん

そう。でも、言う相手によっては、間違ったアドバイスでもないんだ

かめさん
かめさん

意味わからない!

というわけで、説明していきます。

このブログを書いた人

木花(もっか)

  • 日本睡眠学会総合専門医、博士(医学)
  • 様々な睡眠の問題で困る人を15年以上診てきています
  • 月に2回くらい、入眠困難や早朝覚醒で睡眠時間がガクッと減る日があります

より詳しくはこちら

忙しい人のためのまとめ
  • 日頃から不眠で困っている人は、「眠れないのに布団にいる」ことをやめた方が不眠が改善する
  • ふだんはよく眠れている人は、たまに眠れない日に布団に居続けるくらいならセーフ。でも、どちらかと言えば布団を出る方がおすすめ。
  • 「明日は受験当日、眠れない!」→一生にそう何度もない日の前夜なら、無理に布団を出ることもない

なぜ慢性不眠の人は、眠れない時は布団を出るべきなのか

眠れない人
眠れない人

昨日も眠れなかった。今日も眠気が来ないけれど、眠る時間を稼ぐために、少しでも長く布団にいたい…

これって凄く自然な感情なんですよね。「眠れなかったからこそ、長く布団にいた方がいい」という直感。
一見、正しそうに見えます。

けれども実はここが、不眠を長引かせることになるかどうかの、大きな分岐点だったりします。

「眠れないのに布団にいる」と起こること

眠れないのに布団にいることに、ストレスを感じる人は多いです。そしてそのストレスにより、次に布団に入る時にも「また眠れなかったらどうしよう」という不安や緊張が出やすくなります。

これはすなわち、「寝床」と「ネガティブな感情」が結びついてしまっている状態です。こうなると、眠れませんよね。

眠れない人2
眠れない人2

自分は寝落ちするまで布団の中でスマホを見て楽しんでるから、辛くはないけど?

そうですね、その場合、寝床が「辛い場所」という認識にはなっていないかもしれません。
ただ、これはこれで問題が出てくるんです。

寝床を「遊ぶ場所」だと脳が認識してしまうので。そうなると、ご本人がつらいかどうかはともかく、寝床で眠りにくくはな ります。

眠れない時は布団を出よう

眠れない人
眠れない人

布団に入っても眠れない、でも布団の中で悶々と悩むことも気晴らしをして楽しむことも、不眠改善を考えると良くない、では、どうすれば?

ひつじさん
ひつじさん

答えはシンプル。布団を、出ましょう!

「まだ眠りが来ないな」と不安やイライラが湧いてきたら布団を出ましょう。そうすれば、ネガティブな感情は布団と結びつきません。

眠れない時のスマホとの付き合い方

眠れない人2
眠れない人2

ほんとは良くないとわかってるけど、眠れるまでの時間、ずっとスマホを見ずに過ごすには、夜は長すぎます…

かめさん
かめさん

やむを得ずスマホを見るとしても、最低限、寝床からは出よう!

イメージとして、睡眠への悪影響のレベルってこんな感じなんです:

寝床でスマホを見る > 寝床の外でスマホを見る > スマホ以外の手段で、寝床の外で暇つぶしをする

上ではスマホと書いていますが、見るものがタブレットでもSwitchでもパソコンでも話は一緒で、要は「光る画面をじっと見ること」が眠るためはにあまり良くないです。光の刺激によって脳が、「まだ夜ではない」と間違って認識してしまうので。これは長くなるのでまた別の機会に記事を書きます。

だからまあ、寝る前のスマホそのものが良くないのは事実。
とはいえここで言いたいのは、「どうしてもスマホを我慢できないなら、せめて布団から出た状態で使おう!」というところです。それだけでも、寝床でスマホを見る習慣をつけるよりは眠りやすくなるはずです。

寝床の外に出たそのあとは?

眠れない人
眠れない人

眠れなかったら布団から出よう…って、それだといつ、布団に戻ればいいの?

ひつじさん
ひつじさん

眠くなってから、ですね!

寝床の外で過ごすうちに疲れて、「そろそろ眠れそうかな」という気分になってきたら、布団に戻りましょう。

眠れない人
眠れない人

布団に戻っても、やっぱり眠れないかもしれないじゃない?

ひつじさん
ひつじさん

「やっぱり眠れない」と思ったら布団を出る、それだけです!

眠れない人
眠れない人

つまり…眠れるまで、布団に入っては出るのを繰り返す、ということ?

ひつじさん
ひつじさん

そういうことです!

なお、ここまでお話ししてきた「眠れない時は布団を出る」「寝床では、寝ることしかしない」…このような対処法のことを、専門用語では「刺激統制療法」と言います。
不眠症の治療として第一選択と言われる認知行動療法の中でも、核となる要素の一つです。

「眠れない時は布団を出る」…これは直感に反したやり方である上に、いざやってみると言うほど簡単でもなかったりします。その上、初めて最初の数日はかえって寝不足でしんどく場合すらあります。

それでも、長い目で見ればかなりの人が「前よりは眠れている実感を持てるようになった」と感じられるようになる方法なので、実行してみていただければ幸いです。

かめさん
かめさん

布団にいる時間が短くなっても、朝に起きる時間は今までと同じにしてね!

「ときどき眠れない」レベルの人はどう対処することがおすすめか

と言うわけでここまで、「眠りにくい日が多くて気になる」人向けの話をしてきました。

では、「眠れない日はたまにしかない」というレベル、基本的には満足のいく睡眠を取れている人も同じようにした方がいいでしょうか?

私の個人的な意見としては、「そりゃ出来れば寝床を出た方がいいけれど、つらいなら無理せず寝床にいてもいいかな」と言うところです。
ポテトチップスは体に良くないけど、健康体の人なら時々ポテトチップスを食べることだってありますよね、というのと似たような感じ。

とはいえ、こんな場合はやっぱり寝床から出ましょう!

  • 布団の中にいるとイライラや不安が募ってくる
  • 布団の中で、嫌な考えが頭から離れない
  • 眠れない日が何日も続いている

受験前夜なら横になっていてヨシ!

ここまで色々書いては来ましたが…

明日に大きな試験が控えていたりとか何か大事なイベントがあって眠れない、そんな人に関する私の個人的な考えはこうです:

木花
木花

眠れなくても横になっていてヨシ!

なぜなら、「眠れない時には布団を出ないと良くない!」というここまでの話は、中長期的に、急性不眠を慢性不眠にしないため、慢性不眠をこれ以上こじらせないためのものだからです。

目の前の一晩のことについて言えば、目をつむって横になって過ごすことで、そりゃ目を開けて起き上がっているよりも少しは睡眠時間を稼げるかもしれません(だからといって主観的に満足な睡眠につながるかどうかは、また別の問題ではありますが)。
だから、受験のような、何年かに1回レベルでの大きな出来事の直前ならば、たとえ眠れなくても横になっていいんじゃない? と私としては思います。

ひつじさん
ひつじさん

一生の内そう何回もないレベルの大事な日の前夜限定ってところがポイントです!

もちろん、「眠れないなら布団を出ることがもう習慣なので、受験前夜でも眠れなければ起きます!」という人は、それはそれで問題ありません。

まとめ

というわけで、医学的には、「眠れない時には布団を出る」、これが大正解です。これを徹底することによって、不眠を慢性化させずに済んだり、いったんは慢性化した不眠を改善させられたりします。

ただし、医学的な正解だからといって、人生を一番ハッピーにするやり方とは限らないと思うんですよね。

ふだんは不眠に困っている自覚のない人や一生に一度レベルの重大イベントの前夜で、眠れなくても横になっている方が楽だったり安心できたりするなら、それでいいんじゃないかというのが、私の個人的な考えです。

以上、少しでもご参考になれば幸いです!

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使用時間ごとのCPAPの効果をまとめてみたhttps://yasashi-sleep.com/cpapeffects/Sun, 31 May 2026 13:06:13 +0000https://yasashi-sleep.com/?p=1084

「睡眠時無呼吸を治療するためのCPAPって、長く使うに越したことはないけど、少ない使用時間でも効果があると言う人はいるよね」と常々思っていました。その関係で今回は、CPAPの使用時間と効果を扱った研究をいろいろ調べてまと ... ]]>

「睡眠時無呼吸を治療するためのCPAPって、長く使うに越したことはないけど、少ない使用時間でも効果があると言う人はいるよね」と常々思っていました。その関係で今回は、CPAPの使用時間と効果を扱った研究をいろいろ調べてまとめました。

この記事を書いた人

木花(もっか)

  • 日本睡眠学会総合専門医
  • CPAP治療など睡眠時無呼吸症候群の診療を15年以上行っています。
  • 研究者として書いた論文は、地域住民における睡眠呼吸障害と健康アウトカムの関連を見ているものが多いです。

より詳しくはこちら

忙しい人向けのまとめ
  • CPAP使用時間と効果には量反応関係がある。要するに、使えば使うほど良い。
  • ただし、比較的短時間のCPAP使用であっても、自覚的な眠気が改善したり、入院リスクが低減したりする人は、一定確率で存在する。
  • とはいえ、循環器疾患リスクの低減や運転事故リスクの低減を目的としてCPAPを使うなら、1晩あたり4時間以上のCPAP使用を目指した方が良い。
  • 患者さんへの説明用資料はこちら

きっかけは診療報酬改定(令和8年度)

CPAP診療に携わっている医療従事者の方ならすでに皆様ご存じのことでしょうが、令和8年度の診療報酬改定からCPAPに関連する項目が大きく変わります。

この結果、「患者さんがCPAPをどの程度使えているか」ということが、これまでと違って診療報酬を左右する問題となりました。

まあ、患者さんが全員、ほぼ毎日長時間CPAPを使用できていたら何も悩むことなどないんですけれども、そんな医療機関はまずないですよね。

結果として6月からの我々は、CPAP使用データのうち特に以下の数値を注視することになるはずです。(正式な改訂情報については信頼できるソースより各自ご確認ください)

  • 1か月あたりの1日平均使用時間が1時間以上であるかどうか(在宅持続陽圧呼吸療法2算定要件絡み)
  • 1日使用時間が4時間以上の日が月に20日以上あるかどうか、そういう人が4割以上いるか(充実管理体制加算施設基準絡み)

私は改訂内容の是非や対策を語れるほどの立場にはおりません。ただ、今回の改定内容を見てさすがに思いました。「あ、今まで以上に患者さんの使用時間を意識しなきゃダメだ」と。

同時に浮かんで来た主な疑問は以下の通りです:

  • 「なぜ4時間以上CPAPを使うと良いのか」をこれまで以上に根拠に沿って自信を持って患者さんに説明できるようになりたい。
  • 使用時間がどうしても4時間に届かない人でも、CPAPを続けるメリットはあると個人的には感じている。そのことをサポートするエビデンスを今一度確認したい。
  • 1日の平均使用時間が1時間未満となる人がCPAPを使う意義についてのエビデンスは、何かあるだろうか…?

というわけで、そのあたりについての論文を集めて勉強してみました。

CPAP平均使用時間と効果:各論

ここからは、CPAPの使用時間ごとに効果をまとめていきます。

大前提として、以下に述べる「CPAP使用時間」は、ほとんどの研究では平均使用時間(観察期間中の総使用時間 ÷ 観察期間の全日数)のことです。つまり、全体の半分の日数で1回あたり6時間使えているとしても、全く使えていない日が残り半分なのであれば、CPAP使用時間は3時間ということになります。

【注意事項】
この下の分類は、あくまでも目安です。実際のところ、短時間使用で効果がはっきりと出る人もいるし、毎日長時間使用していても自覚症状の改善がはっきりしない人もいます。何時間CPAPを使用すればどの程度の効果がでるかという予測は、あくまで集団を前にした時の確率論に過ぎず、目の前にいる患者さんに当てはめられるとは限りません。患者さんに伝える場合は、そのことを念頭に置いておきましょう。

1時間程度

ひつじさん
ひつじさん

使わないよりはわずかにマシ

救急外来受診率および入院率が低下する

米国で新規に閉塞性睡眠時無呼吸と診断された18歳以上の男女179,188人の保険請求データを解析した研究では、CPAP使用が1時間増えるごとに入院率が5~10%、救急外来受診率が5~7%低下しました。この変化はCPAP使用が1-2時間程度の段階から見られました (Malhotra et al., 2023)

日中の眠気が改善する人もいる

米国で新規にCPAPを開始した重症閉塞性睡眠時無呼吸患者149名を対象とした研究によると、CPAP使用時間が1日平均2時間以下であった人のうち、CPAP開始前に自覚的な眠気があった人(エプワース眠気尺度で10点超)の41.2%で眠気が正常域(エプワース眠気尺度10点以下)にまで改善したということです。(Weaver et al., 2007)

3時間程度

ひつじさん
ひつじさん

効果が見えやすくなってくる

「1時間程度」の項目で説明したように、救急外来受診率や入院率は引き続きCPAP使用時間に応じて低下します (Malhotora et al, 2023)。
他にも以下のような効用が期待できます。

生存率向上

871名のCPAP患者を平均48.5カ月間追跡した研究で、CPAPを1~6時間使用した群(平均使用時間3.9時間)の生存率が91.3%であり、CPAP使用時間が1時間未満の人(生存率85.5%)と比較して、生存率が高いことが示されました。(Campos-Rodriguez et al, 2005)

自覚的眠気の改善

  • Gaislらは、もともとCPAPを使っている患者さんに2週間 sham CPAP (効果がない偽物のCPAP)を使わせて、効果のあるCPAPを使い続けた群と比較するランダム化比較試験を行いました。このとき、sham CPAPを使っていた…つまりは実質的にはCPAPを一時中止されていた患者さんでは、治療継続群よりもエプワース眠気尺度が2.4ポイント高くなり、自覚的な眠気が増大していました。研究開始前のCPAP使用が1日あたり平均3.5±0.4時間と多くはなかったにもかかわらず、です。つまり、1日あたり4時間未満の使用であっても、CPAPを中止すると眠気は増大するということです。(Gaisl et al., 2020)
  • Barbéらによるランダム化比較試験でも、CPAPを1日あたり3.61時間以上使えた群では、生活指導を行ったのみの群と比較してESSが有意に改善していました。なお、CPAP使用が1日あたり3.6時間以下であった場合には、ESSの改善に生活指導群との有意な差はなかったようです (Barbé et al., 2010)。

QOLの改善

循環器疾患の既往がある閉塞性睡眠時無呼吸患者を対象としてCPAP治療の効果を検証したランダム化比較試験(SAVE試験)では、CPAP使用群の平均使用時間は3.3時間±2.3時間で、CPAPを使わなかった群と比較して、日中の眠気だけでなく抑うつスコア、不安スコア、QOLのスコアがいずれも改善しました(McEvoy et al., 2016)

4時間以上

ひつじさん
ひつじさん

循環器疾患予防のため、一般的に「目指すべき」ライン

一般的にCPAPは「4時間以上の日を7割以上」が良いアドヒアランスの目安とされています。この根拠としてよく引用されるのが1993年のKribbsらによる論文ですね。この研究で「CPAPを日常的に使えている」の基準が「4時間以上の日が70%以上」だったのです。ちなみにこの基準に当てはまる人々は、当てはまらなかった人たちよりもCPAPにより満足し、日中のエネルギーレベルが改善したということでした (Kribbs et al. 1993)。

つまり、もともと割と恣意的な基準ですが、その後積み上げられた多くの研究データが、「4時間」という閾値に実際妥当な面がありそうだということを示しています。

循環器疾患リスク低減

  • Barbéらが日中の眠気がないOSA患者725人を対象としてCPAP治療を行ったランダム比較試験では、事後解析(post hoc解析)の結果、CPAPを1日4時間以上使用した群では、対照群と比較して高血圧および心血管イベントの発症リスクが有意に低下(約28%の減少)することが示されました。(Barbé et al., 2012)
  • McEvoyらによるランダム化比較試験では、平均4時間以上CPAPを使えた人をCPAP未使用の群の人と1対1傾向スコアマッチングを行って解析したところ、1日4時間以上の良好なCPAPアドヒアランスを維持した群で脳卒中の発症リスクが低下する傾向(ハザード比0.56)が認められました。(McEvoy et al., 2016)
  • 二次予防に関しては、CPAPによる循環器疾患予防に関するランダム化比較試験のメタ解析が2023年に出ています。 。このメタ解析では、SAVE, ISAACC, RICCADSAという3つの大型RCTの結果を統合しました。結果をざっくり言えば、1日4時間以上のCPAPアドヒアランスを維持することでMACCE(主要な心血管・脳血管イベント)の再発リスクが31%有意に低下する(HR 0.69)というものでした。(Sánchez-de-la-Torre et al., 2023)

自覚的な眠気の改善

一晩あたりのCPAP使用時間が4時間以上に達すると、CPAP開始前にエプワース眠気尺度の点数10点を超えていた(つまり、自覚的な眠気が病的に強かった)人の6割で眠気が正常化することをWeaverらは示しました。(Weaver et al., 2007)

事故リスクの低減

  • CPAP患者1,478人における治療開始前後の交通事故リスクを比較した研究では、CPAPを1晩あたり4時間以上使えた患者では、交通事故の発生率が治療開始前と比較して70%低下しました。一方、使用時間が4時間未満だった群では、逆に事故発生率が54%増加していました。(Karimi et al., 2015)
  • 閉塞性睡眠時無呼吸と診断された大型トラック運転手1,613人を対照群と比較した研究では、1日4時間、全体の70%以上CPAPを使用できた運転手で事故率が対照群と差がないレベルにまで低下しました。(Burks et al., 2016)

6時間前後

ひつじさん
ひつじさん

効果がより確かになってくる

客観的な眠気の改善

CPAP開始前に反復睡眠潜時検査(MSLT, 客観的な眠気の検査)で異常があった患者85名のうち30名がCPAP開始3カ月後にMSLTで正常域にまで眠気が改善しました。改善した人は最大で一晩あたり6時間以上のCPAPを使用していました (Weaver et al., 2007)。

記憶力の回復

記憶力の低下が見られていた閉塞性睡眠時無呼吸患者(平均年齢48.1歳)にCPAP治療を開始したところ、一晩あたり6.1時間から8.4時間CPAPを使用した群では、使用時間が1.9時間の群と比べて記憶力が正常範囲まで回復する人が有意に増えました。(Zimmerman et al., 2006)

循環器疾患リスク低減

  • Barbéらによるランダム化比較試験で、CPAPを1日あたり5.65時間超使えた群では、生活指導を行ったのみの群と比較して収縮期血圧と拡張期血圧が有意に改善していました。(Barbé, 2010)。
  • また、Gervès-Pinquiéらによる5,138人のCPAP患者を中央値で6.6年追跡した縦断的観察研究では、一晩あたり6-7時間CPAPを使用した患者群は、0-4時間しかCPAPを使わなかった群と比較して死亡率および主要な心血管・脳血管イベントのハザード比が0.75 と有意に低下していました。(Gervès-Pinquié, 2022)

生存率向上

Campos-Rodriguezらは、871名のCPAP患者を平均48.5カ月間追跡した研究にて、CPAPを6時間以上使用した群(平均使用時間7.6時間)の生存率が96.4%であり、CPAP使用時間が1時間未満の人(生存率85.5%)と比較して、生存率が高いことを示しました。(Campos-Rodriguez et al., 2005)

7時間以上

ひつじさん
ひつじさん

最大限の効果が期待できる

日常生活機能の改善

CPAP開始前に日常生活における機能(意欲、活力、対人関係など)が低下していた患者120名のうち68名がCPAP開始3カ月後に正常なレベルにまで日常生活機能が改善しました。改善した人は最大で一晩あたり7時間以上のCPAPを使用していました (Weaver et al, 2007)。

ほとんどの人で日中の眠気が改善する

同じくWeaverらによる研究で、CPAPを一晩あたり7時間以上使用した患者のうちCPAP開始前に自覚的な眠気があった人(エプワース眠気尺度で10点超)の92.9%で眠気が正常域(エプワース眠気尺度10点以下)にまで改善したということです。(Weaver, 2007)

救急外来受診率および入院率の大幅な改善

米国で新規に閉塞性睡眠時無呼吸と診断された18歳以上の男女179,188人の保険請求データを解析した研究では、CPAP使用が1時間増えるごとに入院率が5~10%、救急外来受診率が5~7%低下し、この効果はCPAP使用が一晩あたり9時間程度の範囲まで直線的に認められました。(Malhotra et al., 2023)

CPAPと使用時間と効果:まとめ

ここまで見てきた研究結果からは、以下のようなことが言えます。

CPAP使用時間と効果には量反応関係がある

WeaverやGervès-Pinquié、Malhotraの論文はいずれも、それぞれ違うタイプの効果について、CPAPの使用時間と効果との間に量反応関係があるということを示しています。つまり、「使えば使うほどよい」。

したがって、CPAPを使うことに格別の苦痛がない患者さん、あるいは健康上最大限のアウトカムを望む患者さんに対しては、一晩あたり6-7時間以上のCPAP使用を推奨することが望ましいと言えるでしょう

短時間のCPAP使用であっても、自覚症状が改善する人もいる

一方で、真面目にいろいろ工夫をして頑張っても、長時間CPAPを着けることがどうしても難しい人も少なくありません。そのような場合であっても、CPAPを使うことが無意味であるわけではありません。
短時間の使用であっても自覚的な眠気が改善する人はある程度います。また、入院や救急外来受診を多少は減らせる効果もあります。

とはいえCPAP使用目的によっては、ある程度しっかりと使うことが望ましい

ただし、これまで見てきた研究結果から考えると、循環器疾患予防を望む人はCPAPを1日あたり4時間、できれば5-6時間程度は使うことが望ましそうです。運転時の事故リスク低減を目的とする場合も、一晩あたり4時間以上を目標とすることが安全そうです。

感想と余談

今回色々調べて、短時間のCPAP使用でも自覚的な眠気は比較的改善しやすいようだと確認できました。
ただ、重大な病気の発症や運転事故の危険を低下させるためにはやはりCPAPを4時間は使った方が良いようだとも納得したので、今後の診療に生かしていければと思います。

とはいえ今回、CPAPの効果についた論文にたくさん目を通して思ったんですけど、高度肥満(BMI 35 くらいある)かつ重症SAS(参加者の平均AHIが60とか)の参加者ばかりの研究の多いこと。非肥満者とか、中等症SASとかだったりするとまた結果が変わってくることもあるのかもしれませんね…。

また、CPAP使用1時間未満の群については、多くの研究で対照群扱いなのもあり、何か健康上の効果があるのかないのかわかりませんでした。あまり効果が期待できないことは確かですが、ゼロと言い切れる根拠も現時点では存在しないというところですね。(とはいえ、効果があるという根拠がない以上、平均1時間未満のCPAP使用について算定をとれなくなった今回の診療報酬改定の方向性は理解できます)

説明用資料つくりました

今回の話を患者さん向けにまとめた説明資料があると便利かもなと思い、作ってみました。
「こんなの作ってみてや」とChatGPTにネタ出しして描いてもらった図をもとに、文章部分をだいたい書き換え多少デザインを調節した、ChatGPT 5.5との合作です。
わかりやすさを優先して、若干断定的な言い回しとなっております。

もし使いたい方がいらっしゃれば、ご自由にどうぞ。

参考文献

  1. Barbé F, Durán-Cantolla J, Capote F, et al. Long-term effect of continuous positive airway pressure in hypertensive patients with sleep apnea. Am J Respir Crit Care Med. 2010;181(7):718-726. doi:10.1164/rccm.200901-0050OC
  2. Barbé F, Durán-Cantolla J, Sánchez-de-la-Torre M, et al. Effect of continuous positive airway pressure on the incidence of hypertension and cardiovascular events in nonsleepy patients with obstructive sleep apnea: a randomized controlled trial. JAMA. 2012;307(20):2161-2168. doi:10.1001/jama.2012.4366
  3. Burks SV, Anderson JE, Bombyk M, et al. Nonadherence with employer-mandated sleep apnea treatment and increased risk of serious truck crashes. Sleep. 2016;39(5):967-975. doi:10.5665/sleep.5734
  4. Campos-Rodriguez F, Peña-Griñán N, Reyes-Nuñez N, et al. Mortality in obstructive sleep apnea-hypopnea patients treated with positive airway pressure. Chest. 2005;128(2):624-633. doi:10.1378/chest.128.2.624
  5. Fujita Y, Yamauchi M, Muro S. Assessment and management of continuous positive airway pressure therapy in patient with obstructive sleep apnea. Respir Investig. 2024;62(4):645-650. doi:10.1016/j.resinv.2024.05.004
  6. Gaisl T, Rejmer P, Thiel S, et al. Effects of suboptimal adherence of CPAP therapy on symptoms of obstructive sleep apnoea: a randomised, double-blind, controlled trial. Eur Respir J. 2020;55(6):1901526. doi:10.1183/13993003.01526-2019
  7. Gervès-Pinquié C, Bailly S, Goupil F, et al. Positive airway pressure adherence, mortality, and cardiovascular events in patients with sleep apnea. Am J Respir Crit Care Med. 2022;206(11):1393-1404. doi:10.1164/rccm.202202-0366OC
  8. Karimi M, Hedner J, Häbel H, Nerman O, Grote L. Sleep apnea related risk of motor vehicle accidents is reduced by continuous positive airway pressure: Swedish Traffic Accident Registry data. Sleep. 2015;38(3):341-349. doi:10.5665/sleep.4486
  9. Kribbs NB, Pack AI, Kline LR, et al. Objective measurement of patterns of nasal CPAP use by patients with obstructive sleep apnea. Am Rev Respir Dis. 1993;147(4):887-895. doi:10.1164/ajrccm/147.4.887
  10. Malhotra A, Sterling KL, Cistulli PA, et al. Dose-response relationship between obstructive sleep apnea therapy adherence and healthcare utilization. Ann Am Thorac Soc. 2023;20(6):891-897. doi:10.1513/AnnalsATS.202208-738OC
  11. McEvoy RD, Antic NA, Heeley E, et al. CPAP for prevention of cardiovascular events in obstructive sleep apnea. N Engl J Med. 2016;375(10):919-931. doi:10.1056/NEJMoa1606599
  12. Sánchez-de-la-Torre M, Gracia-Lavedan E, Benitez ID, et al. Adherence to CPAP treatment and the risk of recurrent cardiovascular events: a meta-analysis. JAMA. 2023;330(13):1255-1265. doi:10.1001/jama.2023.17465
  13. Weaver TE, Maislin G, Dinges DF, et al. Relationship between hours of CPAP use and achieving normal levels of sleepiness and daily functioning. Sleep. 2007;30(6):711-719. doi:10.1093/sleep/30.6.711
  14. Zimmerman ME, Arnedt JT, Stanchina M, Millman RP, Aloia MS. Normalization of memory performance and positive airway pressure adherence in memory-impaired patients with obstructive sleep apnea. Chest. 2006;130(6):1772-1778. doi:10.1378/chest.130.6.1772

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睡眠は思い通りにならない ~ではどうするか~https://yasashi-sleep.com/hardtocontrolsleep/Tue, 19 May 2026 08:18:39 +0000https://yasashi-sleep.com/?p=961

それなりの年数、私は睡眠専門医としてたくさんの人の睡眠と関わってきました。並行して、病気と言うほどではないもののうっすらと慢性的に問題がある自分の睡眠と向き合い続けてもいます。その経験からしみじみと感じるのは、「睡眠を人 ... ]]>

それなりの年数、私は睡眠専門医としてたくさんの人の睡眠と関わってきました。並行して、病気と言うほどではないもののうっすらと慢性的に問題がある自分の睡眠と向き合い続けてもいます。その経験からしみじみと感じるのは、「睡眠を人の思い通りに操ろうなど無理だ」ということです。

え、じゃあ、睡眠医学に意味なんてないということ? と思ったそこのあなた、大丈夫です、ちゃんと睡眠医学は人の睡眠を改善させることができます。ただ、100%理想通りにというのは難しいかもしれません。そのあたりについての個人的な見解を、この記事では述べていきます。

このブログを書いた人

木花(もっか)

  • 日本睡眠学会総合専門医 / 博士(医学)で研究者
  • 仕事では不眠から過眠まで睡眠障害全般を診てきています
  • 若い頃は睡眠不足で居眠り、最近は不眠に悩まされがちです

より詳しくはこちら

睡眠が思い通りになればいい

このあたりの願望は、よくあるものなんじゃないでしょうか。

元気な人
元気な人

毎日4時間睡眠で仕事や趣味をしたい

若者
若者

夜更かしもしたいけど朝は早くにスッキリ起きたい

仕事人
仕事人

パフォーマンス最大化のためベストの睡眠を追求したい

願うのはもちろん自由です。中には、うまいこと思い通りの睡眠を得られているラッキーな人もいることでしょう。

しかし、「願ってそのための努力をすれば思い通りの睡眠が手に入る」とは限りません。なぜでしょうか。

ひとりひとり違う「睡眠のかたち」

まず言えるのは、それぞれの人がどのような睡眠を経験しているかは、ひとりひとり全く違うということです。これをこの記事では「睡眠のかたち」と呼ぶことにします。

「睡眠のかたち」がなぜみんな違うかというと、睡眠を構成する要素の組み合わせパターンがとにかく多いからです。

ではその睡眠を構成する要素とはどんなものか。試しに思いつくものをリストアップしましたが、いま自分が何も見ずテキトーに書いただけでも、以下のようになりました(当然、もっと考えればまだあるはずです)。

(長いリストなので、「たくさんあるんだなー」くらいの気持ちで眺めていただければOKです)

  • いつ眠くなるか
  • いつ眠るか
  • すぐ眠れるか
  • いつ起きるか
  • 夜中に目が覚めるか
  • 目が覚めたあとでまたすぐ眠れるか
  • 夜中にトイレに行くか
  • 寝言や眠りながら歩く、食べるなどあるか
  • そもそも夜中に眠っているのか
  • 朝はすっきり起きられるか
  • 自力で起きられるか
  • 起こされればすぐ起きられるのか
  • 日中に眠気を感じるか
  • 日中に居眠りをするか
  • 昼寝はするか
  • 昼寝をしようと思えば眠れるのか
  • 昼間に何時間も眠ることもあるのか
  • 寝落ち(夜にまだ寝るつもりはなかったのに寝る準備が終わらないまま長時間眠りこむこと)はするか

なお、項目同士の関連は意外と乏しかったりします。
例えば、夜に早くから眠くなるからといってすぐに眠れるとは限らない。
日中によく居眠りする人でも、夜中はよく目覚めていたりする。

すなわち、ひとりひとりの「睡眠のかたち」は、最低限このリスト全部を掛け合わせたくらいの組合わせ数はあると言って過言ではありません。

特に大きく「睡眠のかたち」を左右するのは以下のような要因です。

生まれ持った特性

睡眠時間が長いか短いかは、かなりの部分が遺伝で決まっています。

遺伝の影響を調べるためには、双生児研究がよく行われます。双生児研究とは、一卵性双生児(遺伝子がほぼ同じ)と二卵性双生児(遺伝子が半分ほど共通)で性質の似方を比べることで、その性質にどれくらい遺伝の影響があるかを調べる研究です。
睡眠時間を扱った双生児研究の論文を23本集めて統合解析した、メタアナリシスという信頼性が高いタイプの研究では、睡眠時間の個人差の46%は遺伝の影響として説明できるということでした。Kocevska et al. Sleep Medicine Reviews, 2021.

早起きが得意な朝型か、夜に元気な夜型かも、これまた半分は遺伝で決まると言われています。

詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください:

なんで私が夜型に? ~遺伝と環境の相互作用~

年齢

睡眠時間の長さや睡眠の質、さらには朝型夜型の度合いは、年齢によって変わってきます。

詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください:

昔の自分と同じ睡眠がとれない? それは自然な変化かもしれません 

環境

睡眠に影響する環境要因では、こういうものが特に強いです:

  • 朝練のある高校生がそのために早起きをする。
  • 夜勤のある大人が、夜勤明けの昼間に眠る。
  • 通勤や通学時間が長いために、睡眠時間が短くなる

他にも色々ありますね。

  • ひとりで寝ているか、それとも家族の誰かと一緒に寝ているか
  • 寝ている部屋が眩しかったりうるさかったり、暑すぎたり…とにかく、寝る上で不適当な環境ではないか
  • 寝る直前にスマホやタブレット、ゲーム機など光る画面を見ていないか
  • カフェインを摂り過ぎたり、もしくは遅い時間に摂っていたりしないか
  • 寝る直前にお酒を飲んでいないか

…真面目に考えると、これまた非常に長いリストになってきそうだったので、このくらいで止めておきます。

ひとつ言えるのは、これら全部の項目を睡眠に合わせて最適化するのは、特に家族と暮らしていたりすると、非常に大変だということです。

病気

睡眠時無呼吸症候群、不眠症、過眠症、レストレスレッグス症候群、睡眠・覚醒リズム障害…。
どれもこれも、「睡眠のかたち」を大きく変えるものです。

上のようないわゆる睡眠障害以外にも、睡眠に影響を及ぼす病気はたくさんあります。
特に夜中に呼吸がしづらい、痛い、痒い、といった症状が出るものです。
薬の副作用で目が覚めやすくなるというパターンもあります。

無数の要素の掛け合わせで、その人だけの「睡眠のかたち」が決まる

ここまで書いて来たような、生まれ持った特性や年齢、環境、病気とさまざまな要因が、他の人とは違う自分だけの「睡眠のかたち」を決めるのです。

かめさん
かめさん

まあでも、自分でどうにかできる部分だってそれなりにあるじゃない

ひつじさん
ひつじさん

そうは言っても、睡眠時間も朝型・夜型も約半分は遺伝で決まるわけだからねー、限界がある。自分でどうにかできる部分にしたって、睡眠に最適化させる努力をずっと続けるのはけっこう大変だったりする。

かめさん
かめさん

…もしかして、自分の睡眠に合わせた生活をする方が楽だったりする?

ひつじさん
ひつじさん

体調という意味ではね

 なぜ睡眠は思い通りにならないのか

ここまでの話をまとめると以下のようになります。

  • 睡眠を構成する要素がとても多いので、睡眠のかたちは人によってかなり異なる
  • 睡眠に影響する要因も非常に多い上に、個人の努力でどうにもならない部分が大きい
  • 睡眠に「こうあってほしい」という希望も、人によって違う

それゆえに、希望に合わせて睡眠をカスタマイズしようにも以下の問題が生じがちです。

  • 睡眠のかたちも、睡眠に対する希望も多様多彩であるため、理想の睡眠に近づくための根拠のあるマニュアルが乏しい→多くのケースで、カスタマイズするしかない。
  • しかし一般の人は、睡眠についての知識と経験、ツールが足りないので自力でのカスタマイズは困難。
  • 睡眠専門家に依頼したとして、専門家であってもよほど時間と手間をかけない限り、目の前の相手の睡眠に影響しそうな要素全てを把握し調整させることは無理+努力では変えられない部分も大きい。
  • 睡眠専門家が自分自身の睡眠を改善させようという場合すら、睡眠のために全ての行動と環境を最適化することはかなり無理がある上に、努力では変えられない部分も大きい。

結果として、「こうありたい睡眠のかたち」と「実際の睡眠のかたち」は、多くの人でずれがちです。

こんなイメージですね:

睡眠のかたちについての、希望と実際のずれ

そんなわけで、「睡眠を人の思い通りに操ろうなど無理だ」と私は考えるようになりました。

覚醒している本人の意思とは違うところに睡眠のシステムがあり、その癖を知りうまくなだめて一緒にやっていくしかない…と、いう感覚です。

ひつじさん
ひつじさん

睡眠は、覚醒生活をうまく送るための下僕ではなく、覚醒と同格のパートナー、 なのかもね

もちろん、100%満足のいく素晴らしい睡眠ライフを送っている方も、広い世の中にはいらっしゃることでしょう。それは素因と環境と希望と努力の噛み合ったけっこう幸運な事例なのではないかなーと思っております。

睡眠医学にできること

では、希望通りに睡眠をカスタマイズすることができない睡眠医学など、無力なのでしょうか? もちろんそういうわけではありません。

ここまで述べてきたのは、あくまで「人の睡眠を希望に100%合わせることは正直難しいんですよね」という話であり、「多少のズレはあっても、どうにかやっていけるくらいには理想と近い」状態に持っていくための知見なら色々提供できたりします。

つまりこの図の程度↓には持っていくお手伝いなら、睡眠医学的アドバイスによってできる…かもしれません。

理想の睡眠と実際の睡眠がある程度重なっている図

なお、睡眠「医学」である以上、我々睡眠専門医が本領を発揮できるのは、睡眠の病気がある方を前にした場合です。
睡眠時無呼吸症候群にCPAPを使う、睡眠に関連した症状を薬や認知行動療法で和らげる。そのような対処は、医療の枠組み内でしかできないことです。これらの手段を用いて、理想の睡眠から大幅にずれてしまった人を「許容できる程度にずれている」睡眠に持っていくことを、睡眠医療の現場では目指している…と、私は解釈しています(個人的な意見です)。

自分の睡眠とうまく付き合っていこう

まとめとして、睡眠は、100%は思い通りにはなかなかなりません。100%満足のいく状態を追求すると、あなたかあなたの睡眠、どちらかが実のところ無理をしているということになりがちです。

夜更かしをし過ぎたりカフェインやアルコールを摂り過ぎたりと睡眠を粗末にすることもよくありませんが、100%目標の睡眠を達成しようと頑張り過ぎても逆に昼間の生活に無理がきたり、最悪不眠を招いてしまう可能性があります。

睡眠に対してネグレクトにも過干渉にもならず適度な距離を保ち、完璧を望まず、うまくいっしょにやっていこうとすることが、結局満足のいく生活への近道となるのではないかと、私は考えています。

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昔の自分と同じ睡眠がとれない? それは自然な変化かもしれません https://yasashi-sleep.com/sleepandage/Thu, 07 May 2026 07:51:07 +0000https://yasashi-sleep.com/?p=1063

こんなことは、ありませんか? この記事では、年齢によって睡眠は変わっていくものだということを、科学的根拠を踏まえて解説していきます。 まずは、有名な研究からの図を紹介します。 これは、5歳から102歳までの明らかな病気の ... ]]>

こんなことは、ありませんか?

中年女性
中年女性

若い頃よりも、夜中に目が覚めやすくなった…

大学生
大学生

中学高校では朝練のため早起きできていたのに、大学の1限目の授業に間に合うのがつらい

ご隠居
ご隠居

退職したらたっぷり睡眠を取ろうと楽しみにしていたのに、長く眠れない

この記事では、年齢によって睡眠は変わっていくものだということを、科学的根拠を踏まえて解説していきます。

このブログを書いた人

木花(もっか)

  • 日本睡眠学会総合専門医 / 睡眠医学の研究者
  • 小さな子から高齢者まで、睡眠障害全般を診ています
  • 若い頃よりも自分が必要な睡眠時間が減ったことは嬉しいけれど、明け方に目が覚めやすくなったことはちょっと嫌です

睡眠の長さと質

まずは、有名な研究からの図を紹介します。

Ohayon MM et al. Sleep. 2004;27(7):1255-1273 [1]より引用、日本語表記に著者改変

これは、5歳から102歳までの明らかな病気のない男女を対象とした65個研究、計3,577名の睡眠データを統合し、一生を通じて睡眠のパターンはどのように変化するのかを示している図です。

こんなことが読み取れます:

加齢に伴う変化

加齢と共に減っていく

  • 総睡眠時間
  • 睡眠効率
  • 徐波睡眠(深い眠り)
  • レム睡眠

加齢と共に増えていく

  • 中途覚醒
  • ステージ1、2の睡眠(浅い眠り)
かめさん
かめさん

つまり、中年に入ったら若い頃よりも夜中に目が覚めやすくなるのは自然な変化なんですね

ひつじさん
ひつじさん

高齢になったら、若い頃ほどたっぷり長い時間眠れなくなることもね

ただし、病気によって睡眠の質が低下している場合もあります。眠りの状態が悪いせいで眠気が出たり集中力低下やイライラが出たりなど、生活に支障が出て困っている場合は、医療機関の受診をおすすめします。

朝型、夜型

朝型か夜型かどうかにも、年齢は大きく関係します。
これまた有名な研究からの図です。

Roenneberg T et al. Curr Biol.2004;14(24):R1038–R1039. [2]より引用、日本語表記に著者改変

このグラフをどう見るかについては、点がグラフの上に置かれているほど夜型、下に置かれているほど朝型だと思ってください。

縦軸のMSFscというのは、自由なスケジュールで眠った時の睡眠の中間時刻(たとえば、0時に寝て8時に起きるなら中間時刻は4時)を、その人ごとに必要な睡眠時間で調整した数値です。

小学生くらいの子どもはだいたい朝型ですが、思春期に入ってから急激に夜型化が進行し、20歳頃に人生で最も夜型になります(上の図を見ると、男性の方がその傾向がより顕著です)。その後は緩やかに夜型が弱まり、高齢になると朝型化する人が多いです。

かめさん
かめさん

だからあさイチの授業がつらい大学生が多いのかな

ひつじさん
ひつじさん

中学や高校の始業時刻を遅らせたら、生徒の睡眠や健康状態、メンタル、交通事故発生率などなど改善するっていう研究報告がいろいろあるんだよ [3]。大学も遅い時間から始まるといいのかもね。

睡眠健康ガイド2023を活用しよう!

厚生労働省による「健康づくりのための睡眠ガイド2023」はご覧になりましたか?(リンク先ページにPDFがあります)

あれは、最新のエビデンスをわかりやすく伝えようとその分野の専門家たちが叡智を結集させた産物で、難易度は大学基礎レベル程度ととっつきやすいので、睡眠医学に興味のある方には是非目を通していただきたい資料です。(なお、最初がとっつきにくくなってますが、専門家でない方なら、資料の8ページ目から先だけ見ればいいです)

なぜいまこれを紹介するかというと、このガイドでは、「成人」「子ども」「高齢者」と、扱う年齢層を明確に区切り、それぞれのライフステージごとのおすすめを分けて論じているからなんです。個人的には、特に高齢者版で、「床上時間を8時間以上にしない」「睡眠休養感を重視しよう」という、少し前までなかった種類のメッセージがエビデンスをもとにまとめられていることが大変興味深いです。

もちろん、まだ高齢ってほどでもないよという方は成人版、お子さんのいる方や高校生までの方は子ども版を、ぜひご参照ください!

まとめ

睡眠の質や睡眠時間、朝型か夜型かなど、睡眠にかかわるさまざまな要素が、同じ人であっても年齢と共に変化していきます。

中には病気による変化という場合もありますが、日中の生活に支障が出るような睡眠でない限りは、自然な変化という可能性も高いです。自分の睡眠が今どうなっているかを知り、うまく付き合っていきましょう。

参考文献

  1. Ohayon MM, Carskadon MA, Guilleminault C, Vitiello MV. Meta-Analysis of Quantitative Sleep Parameters From Childhood to Old Age in Healthy Individuals: Developing Normative Sleep Values Across the Human Lifespan. Sleep. 2004;27(7):1255-1273. doi:10.1093/sleep/27.7.1255
  2. Roenneberg T, Kuehnle T, Pramstaller PP, et al. A marker for the end of adolescence. Current Biology. 2004;14(24):R1038-R1039. doi:10.1016/j.cub.2004.11.039
  3. ADOLESCENT SLEEP WORKING GROUP, COMMITTEE ON ADOLESCENCE, COUNCIL ON SCHOOL HEALTH, et al. School Start Times for Adolescents. Pediatrics. 2014;134(3):642-649. doi:10.1542/peds.2014-1697
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なんで私が夜型に? ~遺伝と環境の相互作用~https://yasashi-sleep.com/chronotype_determinant/Sun, 19 Apr 2026 10:48:55 +0000https://yasashi-sleep.com/?p=958

「朝8時半には必ず集合」このような取り決めにドキドキしたことのある人も、多いのではないでしょうか。問題は、そう、集合時間に間に合うよう朝にちゃんと起きられるのか―― そういう経験のないあなたでも、「なんであの人はいつも朝 ... ]]>

「朝8時半には必ず集合」
このような取り決めにドキドキしたことのある人も、多いのではないでしょうか。
問題は、そう、集合時間に間に合うよう朝にちゃんと起きられるのか――

そういう経験のないあなたでも、
「なんであの人はいつも朝に遅れるんだ?」
そんな風に不思議になる仲間なら、身近にいたりしませんか?

この記事では、そのように朝が苦手な「夜型」の人を理解するために大切な「なぜ夜型になるのか」という話をしていきます。

この記事を書いた人

木花(もっか)

  • 日本睡眠学会総合専門医
  • 朝起きられず困っている若い人を、これまで数百人ほど診てきました
  • 自分自身のクロノタイプは、中間型寄りの朝型です。

そもそも「朝型」「夜型」って?

時間生物学的な考え方からは、人間は、朝型・夜型・中間型のどれかに分けられます。この型のことを、クロノタイプと言います。

  • 朝型:早寝早起きで、早い時間帯の方が元気に活動できる
  • 夜型:遅寝遅起きで、遅い時間帯の方が元気に活動できる
  • 中間型:どちらでもない(一番多い)

自分のクロノタイプが気になる人は、ネットで受けられて自動採点してくれるこちらの「朝型夜型質問紙」をやってみましょう。[1] 
(もともとは国立精神・神経医療センターのサイト内にあった質問紙ですが、携わった先生の異動に伴い今は秋田大学に置かれているようですね)

ちなみにこれが、私自身の判定結果です。

二日前に同じテストを受けた時はたしか58点で中間型判定されたんですが、少しだけ答えを変えたら今日は59点とギリ朝型になりました。そんな感じで、同じ人が受けても状況によって多少点数は変動します。

ここで見ていただきたいのは、分布がきれいな山の形を描いていることです。最も人数の多いエリア、圧倒的多数が中間型です。朝型はそこそこいるけれど夜型は少なく、そして超朝型と超夜型はいずれも少数派です。

朝型か夜型か、それを決めるもの

では何が夜型になるかどうかを決めるのか? 半分ほどは、遺伝の影響です。

遺伝の影響

遺伝の影響を調べるためには、双生児研究がよく行われます。双生児研究とは、一卵性双生児(遺伝子がほぼ同じ)と二卵性双生児(遺伝子が半分ほど共通)で性質の似方を比べることで、その性質にどれくらい遺伝の影響があるかを調べる研究です。

ここで紹介する研究に参加したのはフィンランドの双子8,753組。遺伝子がほぼ一卵性(2,836組)、と遺伝子が半分ほど共通している二卵性(5,917組)です。

その結果わかったのは、朝型・夜型の個人差の約半分(49.7%)が遺伝によって説明できるということでした。この割合は、年齢や性別によって変わることはないとも著者たちは言っています [2]。

かめさん
かめさん

クロノタイプの半分は遺伝によって決まることはわかった。他は、何によって決まるの?

ひつじさん
ひつじさん

環境と行動ですね~

遺伝以外の要因

これも重要な話なのですが、詳しく解説するとかなり長くなるので、いずれ別の記事に書ければと思います。

クロノタイプに影響しやすい要因の例
  • 光の浴び方の習慣
  • 学校や仕事のスケジュール
  • いつ食事をとるか、カフェインやアルコールをどうとるか
  • 身体的・精神的な病気
ひつじさん
ひつじさん

このあたりは、自分の行動次第で変えられるかもしれない部分だよ

かめさん
かめさん

でも現実問題、学校や仕事のスケジュールって変えにくいよね…

ひつじさん
ひつじさん

遅い時間の始業が当たり前になれば、楽になる人が増えるはずなんだけどね

若者は夜型になりやすい

よく知られていることとして、年齢もクロノタイプに影響します。

これはこれで詳しい説明をすると長くなるので、ここではざっくりと説明します。

  • 多くの人は、10歳頃は朝型であるが、思春期に入ると急激に夜型化が進行する。
  • 夜型化は、20歳頃にピークに達する。
  • その後はじわじわと夜型がやわらぎ、3-40歳頃にはそう極端ではなくなってくる。

参考:Roenneberg T, Kuehnle T, Pramstaller PP, et al. A marker for the end of adolescence. Current Biology. 2004;14(24):R1038-R1039. doi:10.1016/j.cub.2004.11.039 [3]

なぜそうなるのかについてまだはっきりと分かってはいませんが、学業などスケジュールの影響やスマホなどのデバイスの影響もさることながら、光に対する体内時計の反応が思春期前と変わる、連続して起きておける時間が長くなる、など体側の要因の方が重要であるようです。
つまりこれまた、本人の努力だけでどうにかできることではなかなかありません。

まとめ

「だいたい半分は遺伝、残りは環境」:この意味するところって、つまりはこういうことです。

夜型や朝型を中間型に近づけたい場合に、努力でどうにかなる部分はある。

でも、努力だけでどうにもならない部分もある!

努力でどうにかなる部分はある程度あるから、夜型で困っている人は、一度は生活習慣を見直してみることがおすすめです。うまくハマってするりと良くなる場合も少なくないからです。

しかし、物凄く本人や家族が頑張ったとしても、朝の予定に間に合うよう起きられることがどうしても続かない人はいます。ちなみにここで厄介なのが、「凄く頑張れば、短い期間なら早起きできる場合もある」ということです。すると、周囲の人からは「頑張ればできるじゃないか、普段は頑張りが足りていないだろう」という目で見られやすい。

勝手ながら想像するに、起きられない人を白い目で見る人自身は少しの頑張りで起きられるから、起きられない人にはその頑張りすら足りていないように思えるのでしょう。しかし実際のところは、すんなりと起きられる人からは想像もつかないほどの頑張りと苦痛が、夜型の人が無理に早く起きるためには必要なのです。

なお、早起きさえできれば良いという問題でもなくて、夜型で遅くまで眠れない人だと、仮に毎日朝早く起きられていたとして、今度は睡眠不足でボロボロになっていたりします。

とは言え、夜型の人も、眠って起きる時間帯が人並みより遅くにずれている以外はまったく正常。自分に合った時間帯に生活できれば十分に実力を生かしたパフォーマンスを発揮できます。夜勤やシフト勤務に対しては、朝型の人よりも適応しやすいというメリットさえあります。

だから、夜型や超夜型の人が学校や会社でハッピーに生きていくために、始業時刻が遅い学校や仕事の選択肢がもっと増えていくといいなと思います。また、夜型の人が遅い時刻から活動を始めることが、多様性の一つとして受け容れられる社会となっていくことを願います。

もっと知りたい方へ本の紹介

私がこの記事を書いている最中に、以前から交流させていただいている睡眠専門医である志村哲祥先生が、ちょうど「『早起き』が子どもを追いつめる」というテーマで「寝た子は起こすな」という本を出されることを知りました。買いました。読みました(リンクは下に)。

子どもたちに早起きを無理やりさせるべきではないと科学的根拠と体験(本文中にもありますが、著者の先生自身が筋金入りの超夜型です)の両方から訴え、対策まで含めてコンパクトにまとめている良書でした。

うちの中学生の子でも読んでいたくらいにわかりやすく書かれており、朝起きられない子どもをどう捉えどう支えるかについてもっと知りたい方にお勧めです。

寝た子は起こすな: 「早起き神話」の深刻な現実

志村 哲祥 (著)

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参考文献

  1. Horne JA, Ostberg O. A self-assessment questionnaire to determine morningness-eveningness in human circadian rhythms. Int J Chronobiol. 1976;4(2):97-110.
  2. Koskenvuo M, Hublin C, Partinen M, Heikkilä K, Kaprio J. Heritability of diurnal type: a nationwide study of 8753 adult twin pairs. Journal of Sleep Research. 2007;16(2):156-162. doi:10.1111/j.1365-2869.2007.00580.x
  3. Roenneberg T, Kuehnle T, Pramstaller PP, et al. A marker for the end of adolescence. Current Biology. 2004;14(24):R1038-R1039. doi:10.1016/j.cub.2004.11.039

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周期性四肢運動で困る人が減るためにhttps://yasashi-sleep.com/problemswithplms/Wed, 18 Mar 2026 08:21:25 +0000https://yasashi-sleep.com/?p=288

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睡眠中の周期性四肢運動(periodic limb movements of sleep, PLMS)。終夜睡眠ポリグラフィで測定する項目の一つです。そして、周期性四肢運動障害 (periodic limb movement disorder, PLMD)は、睡眠障害を真面目に勉強した人なら必ず目にしたことのある病名だと思います。

しかし、このPLMSという病態やPLMDという疾患について、いまひとつ捉えどころがないと感じている人も多いのではないでしょうか?

この記事では、PLMSがなぜ大事なのかについての個人的な見解や、診断およびマネジメントについて、文献からの引用も交えつつ記していきます。

忙しい人のためのまとめ
  • PLMS(睡眠中の周期性四肢運動)は、頻度が高い割には臨床症状の原因となることが少ない。このことが、見過ごされがちな要因と考えられる。
  • 周期性四肢運動の発見に終夜睡眠ポリグラフィが欠かせないことや他疾患との鑑別がややこしいこともまた、見過ごされやすい要因となっている。
  • しかし中には、PLMSの治療によって明らかにQOLが改善するケースもある。
  • 「睡眠の不調の背景にPLMSがあるかもしれない」という視点を常に持つことが大切である。

なぜ大事なのか

稀に非常に困っている人がいる

はじめに強調しておきたいのは、周期性四肢運動(PLMS)を治療しないと大変なことになる人が、稀ながらいることです。

そのような事例を集めた論文をご紹介します。

スペインの睡眠専門医療機関を受診した患者さんで、睡眠中の異常行動(寝言や四肢の動き)を主訴とした人を対象とした研究です [1]。
一般的には、レム睡眠行動障害などの睡眠時随伴症がまず鑑別に上がる状況ながらも、この論文で取り上げられている17名の患者さんは、周期性四肢運動の回数が多い一方(中央値が61.9回/時で範囲が15.6回/時~147.5回/時)、レム睡眠中には筋緊張の低下が見られており、レム睡眠行動障害は否定されていました。年齢の範囲は48歳から77歳で、17例中15例が男性でした。

この17名中、5名がベッドから転落しており、2名が配偶者の首や髪の毛をつかむという危険な行動をとっています。そして3名のベッドパートナーと患者1名が、顔や腕、脚に怪我をしました。

要するに、睡眠中に激しく脚や腕を動かすせいで、怪我をする場合さえあるのです。

そして睡眠障害国際分類第3版改訂版 (International Classification of Sleep Disorders, Third edition, Text Revision, ICSD-3-TR)にも、「PLMSは、患者によっては深刻で暴力的でさえあり、異常な睡眠行動や不快な夢の想起を刺激したり、契機となったりする」と書かれています [2]。

治療によって症状の改善する人が確かにいる

とは言え、大部分のPLMSは、何の治療をしなくてもそう問題のない無害なものです。
従って治療してみても「何も変わりません」と言われる場合も少なくありません。
しかし治療を始めてから夜中に目が覚める回数が明らかに減ったり日中の眠気がかなり良くなったりと、はっきりと症状が改善する人が、数が多くはないものの確かにいます。
だから、睡眠障害を診る時にはPLMSの可能性について常に頭の片隅に置いておかねばならないと私は思っています。

なぜ取り上げられにくいのか

ここまで、睡眠中の周期性四肢運動(PLMS)が重要である理由を説明してきました。しかし実際のところ、睡眠医療の現場においてさえ、PLMSが話題に上ることは少ないように思います。
なぜでしょうか。

無症状のPLMSが非常に多い

まず、PLMS自体は決して珍しくありません。例えばスイスの地域住民2162人(平均年齢58.4歳)を対象として終夜睡眠ポリグラフィを行った調査では、PLMSが1時間あたり15回を越えた人は全体の28.6%でした [3]。

一方で、なんらかの症状を伴うPLMSは多くありません。ICSD-3-TR [2] には、「睡眠の障害や過度の眠気を訴えるものは、PLMS(周期性四肢運動)が1時間あたり15回を超える総人口の約4.5%であった」とあります。少ないですね!

睡眠医学のメジャーな教科書であるPrinciples and Practice of Sleep Medicine 第7版で周期性四肢運動障害について読むと、もっと辛辣です [4]。

The clinically reported relation between sleep complaints and PLMS may, however, be coincidental, given that high rates of both PLMS and sleep complaints in older adults. (Principles and Practice of Sleep Medicine 7th Edition)

臨床現場より報告された睡眠の訴えとPLMSの関連は、高齢者におけるPLMSと睡眠の訴えがいずれも多いことを考慮すると、偶然かもしれない。(筆者訳)

もっとも、このすぐあとに、子どものPLMSは睡眠の問題と一緒に起こりやすいことが書かれており、

PLMD is considered a useful pediatric diagnosis.

PLMDは小児に対する診断としては有用かもしれない。(筆者訳)

とも書かれています。

まあこの教科書にある「高齢者においてPLMSと臨床症状の関連は疑わしい」「小児だと関連している可能性がある」のどちらも受け入れるとして、高齢者と小児の間には数十年に及ぶ歳月があるわけで、そのゾーンにいる若年から中年の人々については、PLMSと臨床症状の関連をすべて「偶然」と片付けなくても良いのではないかなと私は思います。

ちなみに、PLMSに対する治療を行い効果があったとして個人的に記憶に残っている症例は、確かにだいたい4-50代くらいまでの人が多かったです。記録をとっていたわけではないので本当に個人的な印象に過ぎませんが。

よく見かける異常である割に、悪さをしていることは多くはない――そのギャップのせいで、実際に問題を引き起こしているPLMSまでも見過ごされやすくなる――そのような構造があるのではないでしょうか。

かめさん
かめさん

狼少年みたいですね!

Principles and Practice of Sleep Medicine, Seventh Edition

Meir H. Kryger MD. FRCPC (著), Thomas Roth PhD (著), Cathy A Goldstein MD (著)

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RLSなど他の睡眠障害との境目がわかりにくい

いまもこの原稿を書きながら感じていることですが、PLMSの概念ってややこしいです。そのために、余計理解されにくい面があるようにも思います。

まず、睡眠障害国際分類第3版改訂版 (ICSD-3-TR)による周期性四肢運動障害の診断基準はこちらです [2]。

(なお、診断について理解を深めるためには、併記されている「注」などを参照することが必要です。また、転記時のミスもあるかもしれません。臨床現場では必ず原文を参照してください)

周期性四肢運動障害の診断基準(ICSD-3-TRより)

基準A-Dを満たす

A. 睡眠ポリグラフ検査(PSG)で、睡眠中の周期性四肢運動(PLMS)が示される。

B. PLMSの頻度は小児で1時間あたり5回を超え、成人では15回を超える。

C. PLMSが臨床的意義をもつ睡眠障害を引き起こしたり、精神的、身体的、社会的、職業生活上、教育上、行動上あるいはその他の重要な領域において臨床的に重要な機能障害をもたらす。

PLMSとその症状は、その他併存する睡眠障害、身体疾患、または精神疾患ではよく説明できない(例、無呼吸、低呼吸や呼吸努力関連覚醒反応 (RERA)に伴うPLMSは病的所見と判断してはならない)。

このように、周期性四肢運動 (periodic limb movements of sleep) は「睡眠中の周期的な四肢の動き」を意味する症候ですが、周期性四肢運動障害 (periodic limb movement disorder) は「周期性四肢運動のせいで困った症状が出ている病気、ただし周期性四肢運動の出る原因となる他の病気がある場合を除く」病名です。
まず、両者の用語を使い分けなければなりません。

図で示すとこんな感じになります。 (私作成。もし何かおかしなところがあると気が付かれた方はお知らせください):

ICSD-3-TRを見ただけでは、周期性四肢運動障害 (PLMD)という独立した病名のついている部分だけが意味を持っているような気がしがちなのではないでしょうか。実際のところ、病名としての基準は満たさないPLMS…つまり、レストレスレッグス症候群やナルコレプシー、未治療の閉塞性睡眠時無呼吸 (obstructive sleep apnea, OSA)、レム睡眠行動障害に随伴するPLMSであっても、症状を引き起こして患者さんを困らせていれば、立派に治療を要する問題です。

検査されにくい

睡眠に不具合があって病院に行く場合、たいていの人はまず、閉塞性睡眠時無呼吸 (obstructive sleep apnea, OSA)の検出を目的とした検査を受けます。ただし、そうした場合によく使われる在宅での簡易睡眠検査、いわゆる簡易モニターではPLMSは検出できません。

簡易モニターで特に異常所見のない場合でも本人が自覚症状に困っているなら、次は終夜睡眠ポリグラフィ (polysomnography, PSG) による精査へ進むことが筋です。簡易モニターでは検出できなかった睡眠時無呼吸・低呼吸や、それこそPLMSの有無を確認する必要がありますから。

しかしこれまで診療してきた患者さん方の診療情報提供書などから受けた印象としては、簡易モニターで問題がなかった場合に「睡眠時無呼吸はなさそうですね」とそれ以上の検査は行われないことも、睡眠専門医療機関でないところではありがちなようですし、PSGを実施している医療機関でもPLMSは測定していないという場合が少なくないようです。

PSG実施の際に準拠すべきとされている「AASMによる睡眠および随伴イベントの判定マニュアル」ではPLMSの報告が推奨されているのですが…。測定にかかる手間やコスト、その割にPLMSによる問題がある人が多くはないことから切り落とされがちなのかもしれません。

治療法が確立していない

PLMSの治療法は確立していません。2025年の初頭に米国睡眠医学会(American Academy of Sleep Medicine, AASM)がレストレスレッグス症候群とPLMSの治療についてガイドラインを出しているのですが [5]、そこに書かれているPLMS関連の推奨(すなわち、ある程度のエビデンスがあること)は、以下の2つだけです。

PLMDのある成人に対してAASMはトリアゾラムの使用を推奨しない(条件つき推奨、エビデンスの確実性は非常に低い)
PLMDのある成人に対して、AASMはバルプロ酸の使用を推奨しない(条件つき推奨、エビデンスの確実性は非常に低い)

うん…他にちゃんとしたエビデンスがなかったんだということはすごーく伝わってくるんですが、臨床現場的には使い勝手が悪いですね、この推奨。「じゃあ何を使えば良いねん!」ってなる。

後述しますが、実際のところPLMSに対してはRLSと同様の治療が行われることが多く、それでちゃんと効く感触も個人的にはあります。しかしエビデンス的にきちんとした推奨がないとなると、「せっかく検査をして異常を発見してたとしても為すすべがないのでは」と、PLMSのマネジメントそのものに後ろ向きになってしまう医師がいても無理はないなあとは思います。

診断するには

基本的なこと

ここで、簡単に診断についておさらいしておきましょう。

終夜睡眠ポリグラフィ(PSG) における周期性四肢運動(PLMS)のスコアリングで、特に大事な部分はこちらです。
「AASMによる睡眠および随伴イベントの判定マニュアル」より全部で5項目ある部分の2のみのご紹介 [6]:

2.PLMSシリーズは以下のように定義される:
a. PLMSシリーズを定義するためには、連続するLM(下肢運動)イベントが少なくとも4つ以上必要である。

b. PLMSシリーズに含めるためのLM間(連続するLMの各開始から開始までの時間として定義される)の長さは5-90秒である。

c. 左右のLMの開始時点の間隔が5秒未満であれば、1つのLMとしてカウントする。この一連のLMに続き次のLMまでの時間(長さ)は、最初のLMの開始から次のLMの開始までで計測される。

まあ要するに、「4回以上続けて脚がビクンとしていたらPLMSだよ!」ということです。

なお、

4. 無呼吸、低呼吸、呼吸努力関連覚醒反応に先行する0.5秒からイベント後の0.5秒までの間に出現したLMは判定しない

という基準もあり、睡眠中の無呼吸や低呼吸とほぼ同時に生じた脚動だと、PLMSとはみなされません。

それでも、眠時無呼吸の重症度を示す無呼吸低呼吸指数と周期性四肢運動指数の両方がそれなりに高い人もめずらしくはありません。

AASMによる睡眠および随伴イベントの判定マニュアル:ルール,用語,技術仕様の詳細 VERSION 3

米国睡眠医学会 (著), 日本睡眠学会 (翻訳)

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睡眠時無呼吸とPLMSの両方がある人をどう治療するか

このことについて言及しているガイドラインは、私が知る限りは、この記事を書いている段階でありません。
個人的な考えとしては、基本的にはまずは睡眠時無呼吸の治療を進めていくということで良いのではないかと考えます。というのは、やはり睡眠時無呼吸症候群が症状の原因となっている確率の方が高いからです。

先ほどから書いてきているようにPLMSによって睡眠の問題が生じることは多くはありません。
一方で、睡眠時無呼吸によって自覚症状が生じる人はまあまあ多いです。睡眠時無呼吸症候群の有病率を世界で初めて報告したYoungらによる有名な論文では、無呼吸低呼吸指数が5以上だった女性の22.5%, 男性の15.5%が過眠症状を訴えていたと報告しています(なお、この過眠症状の基準は、「日中に強い眠気を感じる」「長い睡眠時間をとっても起床時に回復した感じがしない」「日中のコントロールできない眠気があり生活に支障が出る」のいずれも週2回以上ある場合なので、厳しめです)[7]。

でも、以下のような場合には、脚の症状に対する治療も速やかにおこなっていきましょう。

  • 睡眠中に足が不随意運動を起こしている自覚が明確にある
  • 実はレストレスレッグス症候群も合併していた

PSG上でPLMSの数値が高くても治療をしない場合があるのは、「治療をしても利益があるとは限らない(むしろ治療行為による不利益が生じるかもしれない)」からなので、自覚症状が明らかにある人なら治療をすることによって利益がもたらされる確率が大幅に高まります。

小児と大人の違い

だいたい年齢が増すほどPLMSは増える傾向があります。だからこそ、小児だとわずかな周期性四肢運動であっても異常ということ考え方か、小児の方が基準値は厳しいです。成人で15回/時以上を異常とみなすのに対し、小児では5回/時以上の周期性四肢運動で異常があるとみなされます。

マネジメントの実際

RLSと治療法は同じ(ただし、エビデンスは乏しい)

上にも書いた通り、周期性四肢運動の治療法は確立していません。ただ、レストレスレッグス症候群 (RLS)と似たような機序が想定されていることもあり、経験則的にRLSに対する場合と同じ治療が行われる場合が多いようです(たとえRLSを併発していない場合であっても)。

米国で医療従事者への継続教育に用いられるオンライン資料StatPearlsにある “Periodic Limb Movement Disorder” の項目では、PLMDの患者に対して使用する根拠となる研究はないと断ったうえで、RLSの治療に用いられるドパミン作動薬やα2δリガンドがPLMSの回数を減らすかもしれないかもしれないと紹介しています [8]。個人的には、これらでちゃんと効果が出る感覚があります。

なお、PSGではPLMSが記録されているもののそれが臨床症状と結びついているかは判断が難しい…という人は、「試しに0.125mg程度の低用量のプラミペキソールを処方して睡眠の症状が改善するか見てみる」という診断的治療を行うのもアリです。

なお、上記のStatPearlsでは、クロナゼパムや、(私自身はPLMSを抑える目的で使ったことはありませんが)メラトニン、バルプロ酸、セレギリンが有効という研究もあったとまとめています。

まとめ

PLMSは頻度が高い割に無症候である場合が多く見過ごされがちですが、治療によって著明に改善する症例も存在します。
睡眠に不調を訴える人を見た時に、「PLMSが原因かもしれない?」という選択肢を頭の中においていただければと思います。

長い記事でしたが読んでいただきありがとうございました。

参考文献

1. Gaig C, Iranzo A, Pujol M, Perez H, Santamaria J. Periodic Limb Movements During Sleep Mimicking REM Sleep Behavior Disorder: A New Form of Periodic Limb Movement Disorder. Sleep [Internet]. 2017 Mar 1 [cited 2025 Oct 12];40(3). Available from: https://academic.oup.com/sleep/article/2731733/Periodic

2. 日本睡眠学会, 監訳. 睡眠障害国際分類 第3版 改訂版 (ICSD-3-TR). 東京: 一般社団法人日本睡眠学会; 2025.

3. Haba-Rubio J, Marti-Soler H, Marques-Vidal P, Tobback N, Andries D, Preisig M, et al. Prevalence and determinants of periodic limb movements in the general population. Ann Neurol. 2016 Mar;79(3):464–74. https://doi.org/10.1002/ana.24593

4. Allen RP, Montplaisir J, Walters AS, Högl B, Ferini-Strambi L. Restless legs syndrome (Willis–Ekbom disease) and periodic limb movements during sleep. In: Kryger MH, Roth T, Goldstein CA, Dement WC, editors. Principles and Practice of Sleep Medicine. 7th ed. Philadelphia: Elsevier; 2021. p. 1119–31.

5. Winkelman JW, Berkowski JA, DelRosso LM, Koo BB, Scharf MT, Sharon D, et al. Treatment of restless legs syndrome and periodic limb movement disorder: an American Academy of Sleep Medicine clinical practice guideline. Journal of Clinical Sleep Medicine. 2025 Jan;21(1):137–52. https://doi.org/10.5664/jcsm.11390

6. 米国睡眠医学会著;日本睡眠学会監訳. AASMによる睡眠および随伴イベントの判定マニュアル: ルール,用語,技術仕様の詳細. Version 3. Tōkyō: 日本睡眠学会; 2025.

7. Young T, Palta M, Dempsey J, Skatrud J, Weber S, Badr S. The Occurrence of Sleep-Disordered Breathing among Middle-Aged Adults. N Engl J Med. 1993;328(17):1230-1235. doi:10.1056/NEJM199304293281704

8. Joseph V, Nagalli S. Periodic Limb Movement Disorder. [Updated 2023 Feb 14]. In: StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2025 Jan-. Available from: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK560727/

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