使用時間ごとのCPAPの効果をまとめてみた

「睡眠時無呼吸を治療するためのCPAPって、長く使うに越したことはないけど、少ない使用時間でも効果があると言う人はいるよね」と常々思っていました。その関係で今回は、CPAPの使用時間と効果を扱った研究をいろいろ調べてまとめました。

この記事を書いた人

木花(もっか)

  • 日本睡眠学会総合専門医
  • CPAP治療など睡眠時無呼吸症候群の診療を15年以上行っています。
  • 研究者として書いた論文は、地域住民における睡眠呼吸障害と健康アウトカムの関連を見ているものが多いです。

より詳しくはこちら

忙しい人向けのまとめ
  • CPAP使用時間と効果には量反応関係がある。要するに、使えば使うほど良い
  • ただし、比較的短時間のCPAP使用であっても、自覚的な眠気が改善したり、入院リスクが低減したりする人は、一定確率で存在する
  • とはいえ、循環器疾患リスクの低減や運転事故リスクの低減を目的としてCPAPを使うなら、1晩あたり4時間以上のCPAP使用を目指した方が良い。
  • 患者さんへの説明用資料はこちら

きっかけは診療報酬改定(令和8年度)

CPAP診療に携わっている医療従事者の方ならすでに皆様ご存じのことでしょうが、令和8年度の診療報酬改定からCPAPに関連する項目が大きく変わります。

この結果、「患者さんがCPAPをどの程度使えているか」ということが、これまでと違って診療報酬を左右する問題となりました。

まあ、患者さんが全員、ほぼ毎日長時間CPAPを使用できていたら何も悩むことなどないんですけれども、そんな医療機関はまずないですよね。

結果として6月からの我々は、CPAP使用データのうち特に以下の数値を注視することになるはずです。(正式な改訂情報については信頼できるソースより各自ご確認ください)

  • 1か月あたりの1日平均使用時間が1時間以上であるかどうか(在宅持続陽圧呼吸療法2算定要件絡み)
  • 1日使用時間が4時間以上の日が月に20日以上あるかどうか、そういう人が4割以上いるか(充実管理体制加算施設基準絡み)

私は改訂内容の是非や対策を語れるほどの立場にはおりません。ただ、今回の改定内容を見てさすがに思いました。「あ、今まで以上に患者さんの使用時間を意識しなきゃダメだ」と。

同時に浮かんで来た主な疑問は以下の通りです:

  • 「なぜ4時間以上CPAPを使うと良いのか」をこれまで以上に根拠に沿って自信を持って患者さんに説明できるようになりたい。
  • 使用時間がどうしても4時間に届かない人でも、CPAPを続けるメリットはあると個人的には感じている。そのことをサポートするエビデンスを今一度確認したい。
  • 1日の平均使用時間が1時間未満となる人がCPAPを使う意義についてのエビデンスは、何かあるだろうか…?

というわけで、そのあたりについての論文を集めて勉強してみました。

CPAP平均使用時間と効果:各論

ここからは、CPAPの使用時間ごとに効果をまとめていきます。

大前提として、以下に述べる「CPAP使用時間」は、ほとんどの研究では平均使用時間(観察期間中の総使用時間 ÷ 観察期間の全日数)のことです。つまり、全体の半分の日数で1回あたり6時間使えているとしても、全く使えていない日が残り半分なのであれば、CPAP使用時間は3時間ということになります。

【注意事項】
この下の分類は、あくまでも目安です。実際のところ、短時間使用で効果がはっきりと出る人もいるし、毎日長時間使用していても自覚症状の改善がはっきりしない人もいます。何時間CPAPを使用すればどの程度の効果がでるかという予測は、あくまで集団を前にした時の確率論に過ぎず、目の前にいる患者さんに当てはめられるとは限りません。患者さんに伝える場合は、そのことを念頭に置いておきましょう。

1時間程度

ひつじさん
ひつじさん

使わないよりはわずかにマシ

救急外来受診率および入院率が低下する

米国で新規に閉塞性睡眠時無呼吸と診断された18歳以上の男女179,188人の保険請求データを解析した研究では、CPAP使用が1時間増えるごとに入院率が5~10%、救急外来受診率が5~7%低下しました。この変化はCPAP使用が1-2時間程度の段階から見られました (Malhotra et al., 2023)

日中の眠気が改善する人もいる

米国で新規にCPAPを開始した重症閉塞性睡眠時無呼吸患者149名を対象とした研究によると、CPAP使用時間が1日平均2時間以下であった人のうち、CPAP開始前に自覚的な眠気があった人(エプワース眠気尺度で10点超)の41.2%で眠気が正常域(エプワース眠気尺度10点以下)にまで改善したということです。(Weaver et al., 2007)

3時間程度

ひつじさん
ひつじさん

効果が見えやすくなってくる

「1時間程度」の項目で説明したように、救急外来受診率や入院率は引き続きCPAP使用時間に応じて低下します (Malhotora et al, 2023)。
他にも以下のような効用が期待できます。

生存率向上

871名のCPAP患者を平均48.5カ月間追跡した研究で、CPAPを1~6時間使用した群(平均使用時間3.9時間)の生存率が91.3%であり、CPAP使用時間が1時間未満の人(生存率85.5%)と比較して、生存率が高いことが示されました。(Campos-Rodriguez et al, 2005)

自覚的眠気の改善

  • Gaislらは、もともとCPAPを使っている患者さんに2週間 sham CPAP (効果がない偽物のCPAP)を使わせて、効果のあるCPAPを使い続けた群と比較するランダム化比較試験を行いました。このとき、sham CPAPを使っていた…つまりは実質的にはCPAPを一時中止されていた患者さんでは、治療継続群よりもエプワース眠気尺度が2.4ポイント高くなり、自覚的な眠気が増大していました研究開始前のCPAP使用が1日あたり平均3.5±0.4時間と多くはなかったにもかかわらず、です。つまり、1日あたり4時間未満の使用であっても、CPAPを中止すると眠気は増大するということです。(Gaisl et al., 2020)
  • Barbéらによるランダム化比較試験でも、CPAPを1日あたり3.61時間以上使えた群では、生活指導を行ったのみの群と比較してESSが有意に改善していましたなお、CPAP使用が1日あたり3.6時間以下であった場合には、ESSの改善に生活指導群との有意な差はなかったようです (Barbé et al., 2010)。

QOLの改善

循環器疾患の既往がある閉塞性睡眠時無呼吸患者を対象としてCPAP治療の効果を検証したランダム化比較試験(SAVE試験)では、CPAP使用群の平均使用時間は3.3時間±2.3時間で、CPAPを使わなかった群と比較して、日中の眠気だけでなく抑うつスコア、不安スコア、QOLのスコアがいずれも改善しました(McEvoy et al., 2016)

4時間以上

ひつじさん
ひつじさん

循環器疾患予防のため、一般的に「目指すべき」ライン

一般的にCPAPは「4時間以上の日を7割以上」が良いアドヒアランスの目安とされています。この根拠としてよく引用されるのが1993年のKribbsらによる論文ですね。この研究で「CPAPを日常的に使えている」の基準が「4時間以上の日が70%以上」だったのです。ちなみにこの基準に当てはまる人々は、当てはまらなかった人たちよりもCPAPにより満足し、日中のエネルギーレベルが改善したということでした (Kribbs et al. 1993)。

つまり、もともと割と恣意的な基準ですが、その後積み上げられた多くの研究データが、「4時間」という閾値に実際妥当な面がありそうだということを示しています。

循環器疾患リスク低減

  • Barbéらが日中の眠気がないOSA患者725人を対象としてCPAP治療を行ったランダム比較試験では、事後解析(post hoc解析)の結果、CPAPを1日4時間以上使用した群では、対照群と比較して高血圧および心血管イベントの発症リスクが有意に低下(約28%の減少)することが示されました。(Barbé et al., 2012)
  • McEvoyらによるランダム化比較試験では、平均4時間以上CPAPを使えた人をCPAP未使用の群の人と1対1傾向スコアマッチングを行って解析したところ、1日4時間以上の良好なCPAPアドヒアランスを維持した群で脳卒中の発症リスクが低下する傾向(ハザード比0.56)が認められました。(McEvoy et al., 2016)
  • 二次予防に関しては、CPAPによる循環器疾患予防に関するランダム化比較試験のメタ解析が2023年に出ています。 。このメタ解析では、SAVE, ISAACC, RICCADSAという3つの大型RCTの結果を統合しました。結果をざっくり言えば、1日4時間以上のCPAPアドヒアランスを維持することでMACCE(主要な心血管・脳血管イベント)の再発リスクが31%有意に低下する(HR 0.69)というものでした。(Sánchez-de-la-Torre et al., 2023)

自覚的な眠気の改善

一晩あたりのCPAP使用時間が4時間以上に達すると、CPAP開始前にエプワース眠気尺度の点数10点を超えていた(つまり、自覚的な眠気が病的に強かった)人の6割で眠気が正常化することをWeaverらは示しました。(Weaver et al., 2007)

事故リスクの低減

  • CPAP患者1,478人における治療開始前後の交通事故リスクを比較した研究では、CPAPを1晩あたり4時間以上使えた患者では、交通事故の発生率が治療開始前と比較して70%低下しました。一方、使用時間が4時間未満だった群では、逆に事故発生率が54%増加していました。(Karimi et al., 2015)
  • 閉塞性睡眠時無呼吸と診断された大型トラック運転手1,613人を対照群と比較した研究では、1日4時間、全体の70%以上CPAPを使用できた運転手で事故率が対照群と差がないレベルにまで低下しました。(Burks et al., 2016)

6時間前後

ひつじさん
ひつじさん

効果がより確かになってくる

客観的な眠気の改善

CPAP開始前に反復睡眠潜時検査(MSLT, 客観的な眠気の検査)で異常があった患者85名のうち30名がCPAP開始3カ月後にMSLTで正常域にまで眠気が改善しました改善した人は最大で一晩あたり6時間以上のCPAPを使用していました (Weaver et al., 2007)。

記憶力の回復

記憶力の低下が見られていた閉塞性睡眠時無呼吸患者(平均年齢48.1歳)にCPAP治療を開始したところ、一晩あたり6.1時間から8.4時間CPAPを使用した群では、使用時間が1.9時間の群と比べて記憶力が正常範囲まで回復する人が有意に増えました。(Zimmerman et al., 2006)

循環器疾患リスク低減

  • Barbéらによるランダム化比較試験で、CPAPを1日あたり5.65時間超使えた群では、生活指導を行ったのみの群と比較して収縮期血圧と拡張期血圧が有意に改善していました。(Barbé, 2010)。
  • また、Gervès-Pinquiéらによる5,138人のCPAP患者を中央値で6.6年追跡した縦断的観察研究では、一晩あたり6-7時間CPAPを使用した患者群は、0-4時間しかCPAPを使わなかった群と比較して死亡率および主要な心血管・脳血管イベントのハザード比が0.75 と有意に低下していました。(Gervès-Pinquié, 2022)

生存率向上

Campos-Rodriguezらは、871名のCPAP患者を平均48.5カ月間追跡した研究にて、CPAPを6時間以上使用した群(平均使用時間7.6時間)の生存率が96.4%であり、CPAP使用時間が1時間未満の人(生存率85.5%)と比較して、生存率が高いことを示しました。(Campos-Rodriguez et al., 2005)

7時間以上

ひつじさん
ひつじさん

最大限の効果が期待できる

日常生活機能の改善

CPAP開始前に日常生活における機能(意欲、活力、対人関係など)が低下していた患者120名のうち68名がCPAP開始3カ月後に正常なレベルにまで日常生活機能が改善しました。改善した人は最大で一晩あたり7時間以上のCPAPを使用していました (Weaver et al, 2007)。

ほとんどの人で日中の眠気が改善する

同じくWeaverらによる研究で、CPAPを一晩あたり7時間以上使用した患者のうちCPAP開始前に自覚的な眠気があった人(エプワース眠気尺度で10点超)の92.9%で眠気が正常域(エプワース眠気尺度10点以下)にまで改善したということです。(Weaver, 2007)

救急外来受診率および入院率の大幅な改善

米国で新規に閉塞性睡眠時無呼吸と診断された18歳以上の男女179,188人の保険請求データを解析した研究では、CPAP使用が1時間増えるごとに入院率が5~10%、救急外来受診率が5~7%低下し、この効果はCPAP使用が一晩あたり9時間程度の範囲まで直線的に認められました。(Malhotra et al., 2023)

CPAPと使用時間と効果:まとめ

ここまで見てきた研究結果からは、以下のようなことが言えます。

CPAP使用時間と効果には量反応関係がある

WeaverやGervès-Pinquié、Malhotraの論文はいずれも、それぞれ違うタイプの効果について、CPAPの使用時間と効果との間に量反応関係があるということを示しています。つまり、「使えば使うほどよい」

したがって、CPAPを使うことに格別の苦痛がない患者さん、あるいは健康上最大限のアウトカムを望む患者さんに対しては、一晩あたり6-7時間以上のCPAP使用を推奨することが望ましいと言えるでしょう

短時間のCPAP使用であっても、自覚症状が改善する人もいる

一方で、真面目にいろいろ工夫をして頑張っても、長時間CPAPを着けることがどうしても難しい人も少なくありません。そのような場合であっても、CPAPを使うことが無意味であるわけではありません。
短時間の使用であっても自覚的な眠気が改善する人はある程度います。また、入院や救急外来受診を多少は減らせる効果もあります。

とはいえCPAP使用目的によっては、ある程度しっかりと使うことが望ましい

ただし、これまで見てきた研究結果から考えると、循環器疾患予防を望む人はCPAPを1日あたり4時間、できれば5-6時間程度は使うことが望ましそうです。運転時の事故リスク低減を目的とする場合も、一晩あたり4時間以上を目標とすることが安全そうです。

感想と余談

今回色々調べて、短時間のCPAP使用でも自覚的な眠気は比較的改善しやすいようだと確認できました。
ただ、重大な病気の発症や運転事故の危険を低下させるためにはやはりCPAPを4時間は使った方が良いようだとも納得したので、今後の診療に生かしていければと思います。

とはいえ今回、CPAPの効果についた論文にたくさん目を通して思ったんですけど、高度肥満(BMI 35 くらいある)かつ重症SAS(参加者の平均AHIが60とか)の参加者ばかりの研究の多いこと。非肥満者とか、中等症SASとかだったりするとまた結果が変わってくることもあるのかもしれませんね…。

また、CPAP使用1時間未満の群については、多くの研究で対照群扱いなのもあり、何か健康上の効果があるのかないのかわかりませんでした。あまり効果が期待できないことは確かですが、ゼロと言い切れる根拠も現時点では存在しないというところですね。(とはいえ、効果があるという根拠がない以上、平均1時間未満のCPAP使用について算定をとれなくなった今回の診療報酬改定の方向性は理解できます)

説明用資料つくりました

今回の話を患者さん向けにまとめた説明資料があると便利かもなと思い、作ってみました。
「こんなの作ってみてや」とChatGPTにネタ出しして描いてもらった図をもとに、文章部分をだいたい書き換え多少デザインを調節した、ChatGPT 5.5との合作です。
わかりやすさを優先して、若干断定的な言い回しとなっております。

もし使いたい方がいらっしゃれば、ご自由にどうぞ。

参考文献

  1. Barbé F, Durán-Cantolla J, Capote F, et al. Long-term effect of continuous positive airway pressure in hypertensive patients with sleep apnea. Am J Respir Crit Care Med. 2010;181(7):718-726. doi:10.1164/rccm.200901-0050OC
  2. Barbé F, Durán-Cantolla J, Sánchez-de-la-Torre M, et al. Effect of continuous positive airway pressure on the incidence of hypertension and cardiovascular events in nonsleepy patients with obstructive sleep apnea: a randomized controlled trial. JAMA. 2012;307(20):2161-2168. doi:10.1001/jama.2012.4366
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  4. Campos-Rodriguez F, Peña-Griñán N, Reyes-Nuñez N, et al. Mortality in obstructive sleep apnea-hypopnea patients treated with positive airway pressure. Chest. 2005;128(2):624-633. doi:10.1378/chest.128.2.624
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  7. Gervès-Pinquié C, Bailly S, Goupil F, et al. Positive airway pressure adherence, mortality, and cardiovascular events in patients with sleep apnea. Am J Respir Crit Care Med. 2022;206(11):1393-1404. doi:10.1164/rccm.202202-0366OC
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