この記事は、過眠症診療の経験が乏しいのにモディオダールを継続処方することとなった医師を主な読者として想定しています。 なお、この薬の一般名はモダフィニルでモディオダールは商品名ですが、後に出すモディオダール適正使用委員会が商品名の方を使っていることもあって、本記事ではモディオダールで通します)
木花(もっか)
- 日本睡眠学会認定総合専門医/博士(医学)
- 睡眠学会認定医療機関(A型)に2024年まで10年以上勤務し、ナルコレプシーや特発性過眠症の診断を日常的に行っていました。
- いまも診断後の患者さんのフォローアップを行っています
はじめに
安定した状態の過眠症患者さんの外来診療に関しては余りコンセンサスがなく、医師それぞれに委ねられている領域の話です。ですからここは、ほとんどが「私はこうしている」「私ならこう考える」という個人的意見となっていることをご了承ください。
ただ、モディオダールを継続処方される患者さんで非専門医に紹介される方はそれなりにいるだろうに「どうフォローアップしていくのか」という類の情報をこれまで見た覚えがないので、作ってみたら誰かの役に立つこともあるかもしれないと思い立ちました。
詳しい先生方が読まれると異議を唱えたくなる部分もあるかもしれませんが、そのような場合には、より良いものを作るためのご意見をいただければ幸いです。
モディオダール処方の流れのおさらい
2026年現在、モディオダールの処方は、登録制となっています。
制度の細かいところについては、モディオダール適正使用委員会のサイトをご覧ください。
モディオダールを処方できる医師として登録されるためには、最初に必要書類を提出し、かつe-learningを受ける必要があります。
登録される医師には3種類あります。
- 確定診断を行う医師:睡眠に関連する分野の専門医を有し、眠気を生じる病気の診断と治療に詳しく、なおかつ、「確定診断を行う医療機関」として登録された医療機関に所属している。
- 確定診断後の処方医師:睡眠に関連する分野の専門医を有し、眠気を生じる病気の診断と治療に詳しい。
- 推薦医師:1もしくは2の医師から推薦があり、眠気を生じる病気の診断と治療に詳しい。睡眠関連の専門医は持っていなくて良い。
なお、上の説明はだいぶ端折っているので、詳しく知りたい方はモディオダール適正使用委員会のサイトにある「適正使用基準」のファイルをご確認ください。
で、読んで字のごとく、モディオダールの適応がある疾患(すなわち、ナルコレプシー、特発性過眠症、閉塞性睡眠時無呼吸症候群)を診断して処方を開始できる権限を持つのは1の「確定診断を行う医師」だけです。2と3はモディオダールを開始することができません。
ちなみに私自身は、以前は「確定診断を行う医師」でしたが、長く勤めてきた「確定診断を行う医療機関」を退職したため、今は「確定診断後の処方医師」です。
というわけでモディオダールの処方を開始できるのは「確定診断を行う医療機関」で診療する「確定診断を行う医師」に限られます。
確定診断を行う医療機関のキャパシティには限界があるので、ある程度病状の落ち着いた患者さんには、他の医療機関へ転院してもらうようになります。その際に、「確定診断後の処方医師」もしくは「推薦医師」にお願いすることとなります。
再診の実際
さて、モディオダールを継続処方上で気を付けて行くこととは何でしょうか?
具体的なことを書いていく前に、ひとつ。
過眠症の診療経験が多くない先生方におかれましては、何かしら困った場合は躊躇せず、過眠症に詳しい専門医(≒確定診断医療機関の医師)に紹介もしくは相談をしてください。
その方が先生のため、患者さんのため、そして専門医のためです(だいぶこじれてから送られてきて「あー、もっと早くきてもらえば…」となるよりは、早めに紹介してほしい)。
どこに相談するかについては、最初にその患者さんの過眠症を診断した医療機関がベストだと思いますが、引っ越しなどの事情により行ってもらうことが難しい場合は他のところでも構いません。
モディオダールを服用している方の再診時には、特に問題なさそう方であっても、私は最低限以下のことを尋ねるようにしています。
- 眠気で困ることはありませんか?
- 最近は夜何時頃に寝て、朝何時頃に起きていますか?
- いま心配なことや気になっていることはありませんか?
調子が安定している時の睡眠時間を把握しておくことで、眠気が増悪した時の評価が楽になります。
また、睡眠時間や眠る時間帯の変化から、退職など生活の変化に気づける場合もあります。
眠気が強いと言われたら
さて、ここがこの記事で一番書きたかった部分です。
比較的低用量のモディオダールのみで、医学的に何の問題なく年単位で経過する方は少なくありません。
一方で、どこかの時点で「眠気が強くなった」「最近薬が効かない」と訴えるようになる人も当然います。
そのような時に、どう対処することが望ましいでしょうか?
もちろん皆様おわかりのことと思いますが、薬を増やすのは最後の手段です。
現在の日本では、モディオダールは1日に300㎎までしか使えません。他に眠気を抑制できる薬も限られています。
眠気の訴えが強くなった時にその原因を考えず安易に薬を増量すると、最大用量の薬を使っているのに眠気のコントロールが悪くて苦しむ患者さんを量産することにつながりかねません。
もちろん、薬を増やさないことにはどうにも眠気のコントロールが得られない人も少なくないので必要と判断した時には薬を増やすべきですが、薬を増やす以外の対処法がないかは常に念頭に入れておきましょう。
- 最近の睡眠時間は?
- 眠くなる時間帯は?
- 眠気によってどのくらい困っているか?
- 転職、介護や子育ての開始など、何か生活の変化はあった?
- 鼻炎はない?
- 眠気が強くなるより前に、風邪をひいたなどの体調不良はなかった?
- 最近新しく開始された薬はないか?
- 飲酒量、カフェイン摂取量はどうなっている?
ひとつずつ解説していきますね。
他のどれを聞けなくても、最低限これだけは確認しておきましょう。
要は、睡眠不足のせいで眠くなったのでは? ということ。
ご本人が自覚していそうなものですが、案外考慮されていないことが少なくありません。
- 症状が安定していた頃と比べて、1日30分程度であっても睡眠時間が減っていたりしていないか。
- 年齢的に推奨される睡眠時間より短くはないか。
上記2つについての評価は基本です。
ちなみに、学生さんでよくあるのが、定期試験のために何日間か睡眠時間を削り、テストが終わって普段通りの睡眠時間に戻った後でも眠気が続いているというパターン。

ふだんより睡眠時間を削った後は、削った分を取り返すためにいつもよりも長く寝なければなりませんね
モディオダールを服用して30分後~1時間後あたりの眠気が特に強い場合、反跳性の眠気が疑われます。
いわば緊急度の把握です。
「あまりにも眠くて昨日も運転中に居眠りをして車をぶつけました」
と言われた場合と、
「特に用事はない昼過ぎにテレビを見ながらうとうとしてしまって気が付くと10分経っています。仕事や運転には支障はありません」
と言われた場合とでは、自ずと対処法は異なってきます。
これらの変化によって睡眠時間が減ったり、夜中に頻繁に起こされることなどによって睡眠の質が変化したり、日中によく体を動かすようになったなど睡眠ニーズが増大していたりすると、眠気の増強につながります。
就寝時の鼻閉は睡眠を障害します。この影響は案外侮れません。眠気が強くなったと訴える人に対して鼻炎の治療をおこない、その結果として眠気も改善するということが、特に花粉症シーズンだと稀ならずあります。
感染症に罹患すると、通常、睡眠の必要性は増大します。その時に体が求めるままに睡眠をとれていれば良いのですが、なんらかの事情で十分に睡眠をとれなかった場合や、ある程度元気になった後でも眠気が出やすくなります。
本人的には元気になったつもりで動いていても、まだ何かしら感染症の症状があるならば、感染症そのものによる眠気が続いている可能性もあります。鼻炎や咳によって睡眠を妨げられ続けている場合には、それらの症状が直接睡眠を阻害している可能性が高いです。
また、コロナ罹患後の後遺症として日中の強い眠気が出る人もいます。
慢性疾患でも、喘息の咳やアトピー性皮膚炎のかゆみによって睡眠の質が落ちている場合は比較的よくありますし、他にもなんらかの身体疾患や精神疾患が睡眠に影響を及ぼしている可能性も考慮しなければなりません。
当然、薬によっては副作用として眠気の出ることがあります。
どちらも、量が増えているならそれが悪さをしている可能性があります。
アルコールは睡眠の質を低下させるし、閉塞性睡眠時無呼吸症候群を悪化させる可能性もあります。
カフェインは日中の眠気を抑制しますが、その分夜間の寝つきを悪くしたり睡眠の質を低下させたりします。
ちなみに睡眠不足で眠気が強くなった人にたまに見かけるパターンが、眠気への対策としてカフェインをたくさん飲むものの、根本となる睡眠時間の問題は解決されていないしおそらくカフェインで睡眠の質も落ちるので余計眠気が強くなっていくという悪循環です。
なお、医者側が睡眠時間などの評価をきっちりせずに強くなった眠気に対していたずらにモディオダールを増量すると、カフェインでなくモディオダールで同じような悪循環が出現します。気を付けたいものです。
数は少ないのですが、年単位でフォローしている人だとたまに、最初にはなかった/軽症だった睡眠時無呼吸症候群が増悪している場合があります。
いびきが大きくなっていないか、体重が増えていないか確認し、必要に応じて検査しましょう。
まとめ
ここまで色々書いてきましたが、大多数の患者さんは、同じ量でのモディオダール処方さえ続けていればほとんどの時期はそう問題なく生活していける方々です。
そうした方々を受け入れてくださる地域の医療機関が増えてくだされば、患者さんが生活しやすくなりますし専門医療機関ではより難しい症例の方々にキャパシティを避けますし、大変助かります。
だからこそ、何か困った時には速やかに専門医療機関に投げるという構えで取り組んでいただけたらと思います。
しかし、もし簡単には紹介できない状況にあるような場合に、今回の記載が少しでもお役に立てば幸いです。
