「ちょうどよい睡眠時間」ってどのくらい? ~睡眠不足を評価する~

日中の眠気の原因として、睡眠不足はとっても多いです。病院に来る人だけ見ても睡眠不足のせいで眠い場合はかなり多いし、わざわざ病院にまで来ない人を含めれば相当な数に及ぶことでしょう。

とは言え、睡眠時間が平均より短いだけで眠気の原因が睡眠不足だと言えるのか? あるいは、一見十分な睡眠時間を取っているからといって、睡眠不足は眠気の原因ではないと言い切れるのか? この記事ではその判断をおこなうための考え方について、主に現場で判断する医療者に向けて書いていきたいと思います。

この記事を書いた人

木花(もっか)

  • 日本睡眠学会総合専門医
  • 診察室では、病歴を解きほぐして眠気の原因を推測することが好き
  • 睡眠不足に弱く、睡眠時間が短い日が続くとすぐに居眠りしがちになります。

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推奨される睡眠時間を知ろう!

睡眠不足の有無を評価するためには、まず、ちょうどいいとされている睡眠時間を年代ごとに知っておきましょう!

よく引き合いに出されるのは、米国のNational Sleep Foundation(国立睡眠財団)が2015年に出した睡眠時間についての推奨です [1]
これによると、推奨される睡眠時間は以下のようになります。なお、6歳未満に関しての推奨も出されていますが、ここでは割愛します。

年齢推奨される睡眠時間適切かもしれない睡眠時間推奨されない睡眠時間
6~13歳9~11時間7~8時間、12時間7時間未満、12時間超
14~17歳8~10時間7時間、11時間7時間未満、11時間超
18~25歳7~9時間6時間、10~11時間6時間未満、11時間超
26~64歳7~9時間6時間、10時間6時間未満、10時間超
65歳以上7~8時間5~6時間、9時間5時間未満、9時間超

また、厚生労働省が2023年に出した睡眠ガイドにも、睡眠時間についての推奨が記載されています。そこでは、成人は1日の睡眠時間を少なくとも6時間以上確保することが勧められています。なお、同じガイドにおいて、小学生で9~12時間、中学・高校生で8~10時間の睡眠が推奨されています。

6時間睡眠では不十分な人も少なくないので、厚生労働省からの推奨について「6時間とれば十分!」という誤った解釈をする人が発生したら嫌だなと個人的には思います。
ただ、2022年に実施された国民栄養・健康調査の結果によると、睡眠時間が6時間未満の人は男性の38.4%, 女性の40.4%にも及びます。その現状を考えると、「せめて6時間は睡眠をとろう!」という呼びかけになることは現実的な対処として仕方のないことかもしれません。

「睡眠不足症候群」の診断基準を見てみよう!

さて、睡眠不足によって日中の生活に支障が出ている状態は、立派に病気です。というわけで、睡眠障害の診断基準として世界各地の専門医療機関で使われている、米国睡眠医学会による睡眠障害国際分類第3版改訂版(ICSD3-TR) にも、睡眠不足症候群という項目が設けられています [2]。

この診断基準を一文一句引用するのは著作権上の問題が生じかねないので避けますが、すごくざっくりまとめると、以下の全てを満たしている状態です。

  • 耐え難く眠たい、あるいは居眠りするようなことが毎日ある
  • 記録された睡眠時間が短い、それも3カ月以上ほぼ毎日
  • 休みの日など目覚ましに起こされない時には普段より長く眠る
  • 睡眠時間を延ばせば眠気が良くなる
  • 他の睡眠障害や身体疾患、精神疾患、薬物の影響としては説明できない

(これは敢えて雑に要約している文章なので、実際の症状を判断するために使うことは避けてください)

なお、この項目において「随伴特徴」として書かれている、慢性的な睡眠不足によって起こることのある症状のリストが、なかなか長くて壮観です。

  • 怒りっぽさ
  • 集中力や注意力の欠如
  • 注意持続力の低下
  • 注意散漫
  • 意欲低下
  • 無気力
  • 不機嫌
  • 疲労
  • 落ち着きのなさ
  • 協調運動不全
  • 全身倦怠感

しかし病院まで来る患者さんは、往々にして、これらの症状が睡眠不足のせいだとは気が付いていなかったりします。
(気が付いている人はわざわざ病院まで来ないという偏りはありそうですが)

慢性的に睡眠不足だと、調子の悪さがその人にとっての「普通」となってしまっていて、睡眠不足と結びつけては考えにくくなるのかもしれません。

実際にどうやって判断するの?

以上を踏まえて、目の前にいる人の眠気が睡眠不足らしいかそうではないか、見極めていきましょう。

睡眠不足らしい要素

※ 個人的な意見も含みます

  • 年齢的に推奨されるよりも睡眠時間が短い (多くのケースで大前提)
  • 寝付きが良い(「5分で寝るほど寝付きが良い」と言われると、特に眠いと言われていなくても「この人睡眠不足なのかな…」と疑います)
  • しかし朝は寝起きが悪い(と言っても、頻繁に遅刻するほど起きられないレベルだと、睡眠・覚醒相後退障害の方が疑わしくなってきます。純粋な睡眠不足の場合、朝は予定にかろうじて間に合う程度には起きられる方が多い印象があります…)
  • 休日にいつもより長く眠る 

これらの要素の有無によって直ちに睡眠不足であるか否か断言できるわけではないのですが、多ければ多いほど疑わしさポイントが積み上がっていくイメージです。

その他、判断に使える情報

眠気が出てきた頃と一致して生活の変化、特に睡眠時間の変化ははないか

けっこう大事な情報です。要するに、 「睡眠時間が短くなった直後、もしくはしばらくしてから日中の眠気が出てきたということではないのか?」ということです。

例えばこんなパターンです:

  • 中学校に上がってから睡眠時間がそれまでより1時間ほど短くなり、中1の2学期ごろから眠気がでてきた。
  • 大学生の頃は1日8時間ほど寝ていたが、社会人になってから平日に6時間くらいの睡眠となり、1か月後あたりから仕事中の耐え難い眠気に襲われるようになった。
  • 職場が異動となり通勤時間が伸びた結果、1日30分ほど睡眠時間が短くなり、数か月後から強い眠気が出るようになった。

私見ですが、特に中学生になった少しあとと社会人になった少しあとが、睡眠関係のトラブルが顕在化しやすい時期であるように感じています。

逆に、そのような生活の変化は全く起きていなかったという話だと、眠気の主な原因が睡眠不足であるという確率は下がります。

好きなだけ眠れる時には何時間眠るか

これは、学生さんなら比較的チェックしやすい項目です。できれば1日や2日だけの変化ではなく2週間以上毎日スケジュールの縛りなく眠れるという状況で睡眠時間がどうなるかを確認できるとベストです。

夏休みなど、毎日好きな時間に寝て起きられる時は何時に寝て何時に起きますか?」という風に私は尋ねています。

ただし長期休暇の時も部活や補習があるからそれほど遅くまでは眠れないというケースも珍しくないので(まあ、そういう環境に置かれているためにそもそも睡眠不足になりやすかったのかもしれませんが…)、そのあたりの事情が睡眠時間を左右していないかどうかもあわせて聞いておきましょう。

社会人の方だと、長期の休みがなかったり休みでも色々と用事が入れていたりしがちなので、そのあたりの確認はなかなか難しかったりします。そういう方の場合、学生時の長期休暇時に1日何時間くらい寝ていたかを聞いたりします。

推奨以上の睡眠時間を取れていても睡眠不足になる人はいる

ここまで、推奨よりも睡眠時間が短い場合を主に想定して話をしてきましたが、覚えていていただきたいのは、「推奨される範囲の睡眠時間をとれている=睡眠不足はない」ということではないということです。

紹介した推奨は、あくまで「ここに当てはまる人が多数派である」という話であり、より長時間の睡眠を必要とする人もいます。睡眠障害国際分類第3版改訂版でいう「長時間睡眠者」、ロングスリーパーとも呼ばれる人たちが一つの例です。

例えば1日10時間の睡眠時間を確保できれば昼間の眠気はなく体調も良いという人がいるとしましょう。この人の睡眠時間が8時間に減った時、一見十分な睡眠をとれているようで、実際には2時間分の睡眠不足が生じています。これを繰り返せば睡眠負債が蓄積されていき、強い眠気につながります。

ですから、日中の眠気が強い人の原因について評価をする時は、一見十分な睡眠時間をとれている場合であっても「実は必要な睡眠時間が長い人なのかもしれない」という視点を持っておくことが大切です。

あとは、自己申告が不正確というパターンも存在します。例えば睡眠時間が8時間と自己申告した人がいたとして、週に5日はその通りであったとしても、残りの2日は3時間睡眠になっているということをもしその人が教えてくれなかったら、1日あたりの平均睡眠時間は6時間半になっているということを見過ごすことになります。

最終判断のためには? →睡眠時間を伸ばしてもらうしかない

ここまで、睡眠不足らしい要素について色々と語ってきましたが、結局のところ、睡眠時間を延長してみてもらわないことには、睡眠不足症候群かどうか判断はつきません

もし、睡眠時間を延ばしたあとで眠気などの症状が解消するならば、そのことによって睡眠不足症候群であったという診断をつけられます

睡眠不足を延長しても眠気などの症状が改善しない場合――これが判断に困るところです。なぜなら常に「もっと長く眠ればこの人の睡眠不足は解消するのかもしれない」という疑いがつきまとうことになるからです。

実務的にはひとまず年齢的に推奨される範囲に睡眠時間を延ばしてもらって、それでもなお十分な眠気の改善が得られていないならば、他の原因を積極的に疑って精査を進めていくことが望ましいと思います。

参考文献

  1. Hirshkowitz M, Whiton K, Albert SM, Alessi C, Bruni O, DonCarlos L, et al. National Sleep Foundation’s sleep time duration recommendations: methodology and results summary. Sleep Health. 2015 Mar;1(1):40–3.
  2. 日本睡眠学会, 監訳. 睡眠障害国際分類 第3版 改訂版 (ICSD-3-TR). 東京: 一般社団法人日本睡眠学会; 2025.