妊娠中にモディオダールやリタリン、ベタナミンは使っても安全?

「いま過眠症の薬を飲んでいるけれど、いずれ妊娠した時に赤ちゃんに影響は出ない?」

ナルコレプシーや特発性過眠症は若い時に発症しやすい病気です。つまり、これらの病気に対する治療薬を服用している女性が妊娠・出産する場合も当然出てきます。しかし、薬を使っていると、赤ちゃんにとって安全なのかとても心配になりますよね。この問題について睡眠専門医が解説いたします。

この記事を書いた人

木花 (もっか)

  • 日本睡眠学会総合専門医
  • ナルコレプシーや特発性過眠症の診療経験は10年以上
  • 二児の母親

より詳しいプロフィールはこのブログについてをご覧ください。

忙しい人のためのまとめ

  • 過眠症の薬によってお腹の赤ちゃんへ影響が出る可能性が少しながらあるので、妊娠を計画した時点で薬は休んだ方が良い
  • とは言え、「薬を飲んでいたら絶対に悪い影響が赤ちゃんに出る」というものでもないので、妊娠に気づかず服用していた場合は、気にしすぎないようにしましょう

はじめに:妊娠と薬について一般的な考え方

まず、このあとで記載する薬ごとの赤ちゃんに対する影響について理解していただくためにも、妊娠中、あるいは妊娠を考える方が薬を使うにあたっての一般的な考え方(過眠症の薬のことに限らない)をご紹介します。

  • 多くの薬は、お腹の赤ちゃんにとってそこまで危険なものではありません。
  • お母さんが健康を保つことがお腹の赤ちゃんにとっても大切なことなので、病気や症状、おかれた状況によっては妊娠中に薬を飲むことが必要な選択となる場合もあり得ます。
  • 薬を飲まない状態であっても、流産の自然発生率は15%、先天異常の自然発生率は2-3%と言われています。

参考にしたサイト:

 妊娠・授乳とくすり(くすりの適正使用協議会):一般の方向けのわかりやすい説明です。
 妊娠と薬(厚生労働省):一般の方と医療者両方に向けての情報があります。
 妊娠と薬(日本産婦人科医会):医師向けの説明です。

つまり、妊娠中に薬を飲むことは頭ごなしに否定されるべきものでは ありません。

ただ、お母さんが飲む薬はお腹の赤ちゃんまで届くので、薬を使うかどうか、使うとして何を使うか、慎重になった方が良いことも確かです。

ひつじさん
ひつじさん

ひとりひとり症状や事情は違います。判断が難しいからこそ、主治医など専門家と相談してどうするかを決めましょう

過眠症の薬それぞれが胎児へ及ぼす影響

ここから薬ごとの各論です。

なお、薬の名前は、多くの人が慣れているであろう商品名(例:モディオダール)でここまで書いてきましたが、研究の結果やそこを踏まえた考えについては、論文などの資料に準じて一般名(例:モダフィニル)で書かせていただきます。

モダフィニルと妊娠

モダフィニル(商品名モディオダール)は、 他の似たような薬と比べて問題となる副作用が出るリスクが低く依存性も少ないことから、ナルコレプシーなどの病気によって眠気のある患者さんに対してよく使われている薬です。

ただ、残念ながら、妊婦さんが使うことはおすすめできません

妊娠初期にモダフィニルを使用した影響を扱った研究は、2019年から2020年にかけて相次いで3つ発表されました。その結果は、モダフィニルが赤ちゃんの大きな先天異常(心臓病など)を起こしやすいようだとする研究とそういう証拠はないとする研究とで分かれています

それぞれの詳しい内容についての説明は長くなるので折り畳みました。

まず、デンマークにおける国民健康保険データベースを調べた研究では、2004年から2017年の間に登録された妊娠から、妊娠期間が18週未満や催奇形性が明らかな薬剤を服用していた事例、染色体異常が見られた例などを除外した約83万件のデータが解析に使われ、そのうち49件がモダフィニルを服用しながらの妊娠でした。妊娠期間の最初の91日間にモダフィニルが処方されていたケースが、「モダフィニルに曝露された妊娠」であると定義されました。結果、モダフィニル曝露群では大きな先天異常が6件(12%)に見られ、一方でモダフィニルに曝露されていない828,644件の妊娠で大きな先天異常が見られたのは32,466件(3.9%)でした。モダフィニルに曝露された群の方で、大きな先天異常が見られた率は明らかに高かったわけです [1]

また、 アメリカの研究で、妊娠が成立する前後にモダフィニルもしくはアルモダフィニル(モダフィニルとよく似た性質の薬で日本では認可されていない)を服用していた女性を被験者として募ったものがあります。妊娠が分かる前、もしくは胎児の異常が分かる前に登録しかつ出生した102例中、大きな先天異常が見られたのは13例(4人に先天性斜頸、2人に尿道下裂、3人に先天性心疾患、残りについては論文に記載なし)でした。率として13%と、デンマークでの研究とほぼ同じでした [2]

ただし、モダフィニルが先天異常のリスクであるということを支持しない報告もありますノルウェーおよびスウェーデンの出生登録のデータを用いた研究では、約192万件の妊娠中、妊娠初期にモダフィニルを服用した女性は133人(0.007%)おり、そのうち3人(2.3%)の乳児に大きな先天異常が認められました。モダフィニルを服用しなかった妊婦における大きな先天異常の発生率は2.1%であり、大きな差はないようでした。とはいえ、この論文を書いた研究者たちは、統計学的に、モダフィニルを服用しhttps://doi.org/10.1001/jama.2020.9840た妊娠で大きな先天異常が実際のところは増えるという可能性は残っていると述べています [3]。

妊婦さんはモダフィニルを服用しない方が良い

これらの研究結果を見ると、モダフィニルが赤ちゃんに害をなす可能性が否定できません。
そのことを踏まえると、私としては、妊娠初期の妊婦さんは、モダフィニルの服用を避けた方が良いと考えています。できれば、妊娠を計画した段階でモダフィニルを中止することが最善でしょう。いざ妊娠が分かってから薬を中止するということだと、中止までの短い期間ではありますがお腹の赤ちゃんが薬にさらされるからです。

なお、イギリスの政府機関や世界的に有名なアメリカのマサチューセッツ総合病院からの情報発信でも、妊娠中にモダフィニルを控えるようにと呼び掛けています。

ただし、難しい場合もありますよね

とは言え、たとえ妊娠を計画してもすぐに子どもを授からないことはよくあります。
いつ妊娠するかわからないのに、その間ずっと薬を飲めないというのもきつい話です。そもそも薬なしで普通に生活できる人なら、病院を受診したり薬を処方されたりしていないわけですから。中には、居眠りすると仕事を失ったり大きな事故を起こしたりするリスクにさらされている人もいることでしょう。

そのような人の場合は、上に書いたような情報を踏まえた上で、あなたの個別の病状事や事情をわかっている主治医と、いつまでどのように薬を続けるべきか相談しましょう

もしも事情があって主治医と相談することが難しいような場合は、下で紹介するような相談窓口もあります

妊娠判明前にモダフィニルを服用してしまっていた時は、どうする?

また、思いがけないことがあるのが人生です。

困っている女性
困っている女性

妊娠がわかる前に薬を服用してしまっていた! どうしよう

このようなことも当然起こりえると思います。

その場合どうするか?

かめさん
かめさん

妊娠が判明した時点で薬を止めましょう。あとは気にしすぎないようにしましょう。

さきほど紹介した研究で、妊娠初期にモダフィニルを服用していた妊婦さんから生まれた赤ちゃんの13%に大きな先天異常があったというデータはありましたが、裏を返せば8割以上は大きな問題なく生まれたわけです。

また、そもそも薬を飲まない人が妊娠した場合でも、先天異常が発生する確率は3%ほどあります。
仮に赤ちゃんに何か問題が生じたとしても、薬を飲んだせいだとは限りません。

それに、モダフィニルを飲まずに問題なく生活ができるなら、妊娠と関係なくとっくに薬をやめられていたはずです。
生活のために必要な薬を続けてきたのは、なんら責められるべき行為ではありません。

一方で、妊娠がわかっても生活の都合により薬はやめにくい…という場合もあるかもしれません。
繰り返しますが、悩む場合は主治医や相談窓口など、専門家に直接相談へ行きましょう

メチルフェニデートやぺモリンと妊娠

モダフィニルほど頻繁には使われないものの、ナルコレプシーや特発性過眠症の人に処方される可能性のある他の薬と妊娠の関連についても、わかっていることを説明しておきます。

メチルフェニデート (商品名リタリンやコンサータ)

メチルフェニデート(一般名)の製剤は、もともとはリタリン(商品名)のみでしたが、近年は徐放剤(体の中でゆっくりと放出される薬)であるコンサータ(商品名)が注意欠如多動障害(ADHD)に対してよく使われるようになりました。

飲んだ人にとっては、コンサータの方がリタリンよりも効果が長続きするという違いがありますが、いったん体内へリリースされた薬の成分がどう振る舞うかに関しては、2つの薬の間で違いはありません。

ひつじさん
ひつじさん

リタリンはナルコレプシーに、コンサータはADHDに対してのみそれぞれ処方できる薬です。

ただ,過眠症の方でも、ADHDを合併していてコンサータを服用している人もいます。

メチルフェニデートが妊婦さんに及ぼす影響については、妊娠初期にメチルフェニデートを服用していた妊婦さんで、赤ちゃんに大きな先天異常が生じるリスクは、メチルフェニデートを服用していない場合を1として、1.26 (95%信頼区間 1.05-1.51)という報告があります[4] 。平たい言葉であらわすと、少しだけどリスクはあるというところです。

なお 、モダフィニルの項目で紹介したDamkierらによる研究 [1]では、モダフィニルの方がメチルフェニデートよりも胎児の先天異常を引き起こすリスクは高いと述べています。どうしても眠気に対する薬をやめられない妊婦さんは、妊娠期間中のみモダフィニルからメチルフェニデートに変更するのがひとつの考えかもしれません。

ただし、メチルフェニデートは依存性が高い薬であり、処方の対象となる病気はかなり限られています。どうしてもこの薬が必要な状態であるか、処方できる資格を持った医師が慎重に判断する必要があります。

ぺモリン (商品名 ベタナミン)

稀に重篤な肝障害を起こすことが怖い薬ですが、モダフィニルやメチルフェニデートと違って処方するために複雑な検査が必要ないことから、診断名がはっきりしないような強い眠気の方、あるいはモダフィニルが副作用のために使えなかった方などに処方されていることがあります。

ただ、ぺモリンが認可されている国が少なく使っている人も少ないせいか、ぺモリンと妊娠についての論文は調べても見つかりません。
したがって、ぺモリンが胎児の異常を引き起こすかどうかはデータがないためわかりません。

効果の似ているモダフィニルやメチルフェニデートで胎児に危険があるとするデータが出ていることを考えると、妊娠中はぺモリンも控えておいた方が安全だと私は思います

まとめ:妊娠中に薬は休んだ方が安全、だけど最終的には主治医と相談しよう!

日中の眠気を減らす効果がある薬を妊娠初期に服用すると、赤ちゃんの先天異常をきたすリスクがわずかながら上がります。
計画的に妊娠するなら妊娠を計画した段階から、予想外の妊娠なら妊娠がわかった時点で薬をやめることがおすすめです。

ただし、人によって症状や環境は違うので、どうすることがご自身にとってベストなのか、最終的には薬を処方している医師と相談してから決めましょう。

おまけ:妊娠と薬についての相談窓口

なお、妊娠中の薬について主治医に相談したが、主治医にもよくわからない様子だ…等と相談相手がいなくて困ってしまう場合もあるかもしれません。そんな時に頼れるかもしれない相談窓口についてご紹介しておきます。

日本を代表する小児病院である国立成育医療センター内に「妊娠と薬情報センター」 を見てみましょう。

https://www.ncchd.go.jp/kusuri

ここのぺージによると、妊娠・授乳中の薬物治療に関して不安を持つ方からの相談に対応するため、全国47都道府県の拠点病院に「妊娠と薬外来」を設置しているということです。拠点病院のリストもあります。

ただし、病院ごと値相談できる曜日や時間帯は限られているようであり、なおかつ相談の費用はどこも自費負担となっていることにご注意ください。

それでは、今回の記事が何かのお役に立てば幸いです。木花でした!

参考文献

  1. Damkier P, Broe A. First-Trimester Pregnancy Exposure to Modafinil and Risk of Congenital Malformations. JAMA. 2020 Jan 28;323(4):374.
  2. Kaplan S, Braverman DL, Frishman I, Bartov N. Pregnancy and Fetal Outcomes Following Exposure to Modafinil and Armodafinil During Pregnancy. JAMA Intern Med. 2021 Feb 1;181(2):275.
  3. Cesta CE, Engeland A, Karlsson P, Kieler H, Reutfors J, Furu K. Incidence of Malformations After Early Pregnancy Exposure to Modafinil in Sweden and Norway. JAMA. 2020 Sep 1;324(9):895.
  4. Koren G, Barer Y, Ornoy A. Fetal safety of methylphenidate—A scoping review and meta analysis. Reproductive Toxicology. 2020 Apr;93:230–4.

全体について参考にしたサイト(再掲):

 妊娠・授乳とくすり(くすりの適正使用協議会):一般の方向けのわかりやすい説明です。
 妊娠と薬(厚生労働省):一般の方と医療者両方に向けての情報があります。
 妊娠と薬(日本産婦人科医会):医師向けの説明です。