RLSと鉄剤について真面目に考えてみた

睡眠医学を実践するには、鉄剤の使い方について適切な知識を持つ必要があります。
なぜなら、レストレスレッグス症候群 (restless legs syndrome, RLS)の患者さんに鉄欠乏が存在している場合、鉄補充が治療として第一選択となるからです。

ただし,RLSに対して鉄補充をする場合、一般的に鉄欠乏性貧血に対する治療を行う場合とは、基準とする数値が異なってきます
本稿では、特にそのあたりの違いにフォーカスを当てて説明していきます。

この記事でわかること

  • RLSの診療にあたって、鉄関係の項目をどう測定しどう評価すれば良いのか
  • 睡眠診療の現場で鉄剤をどう使えばいいのか

なお、できる限りデータに当たりながら書いたものではありますが、当方はあくまで睡眠医学の専門家であり、鉄欠乏症や鉄剤の専門家ではありません。また、保険診療上は適応外となる用法についても述べていますので、実践については現場に即した判断をお願いいたします。

この記事を書いた人

木花 (もっか)

  • 日本睡眠学会総合専門医
  • レストレスレッグス症候群の診療経験は10年以上
  • 睡眠の医者になる前は内科医をしていた時期もあります

より詳しいプロフィールは自己紹介をご覧ください。

前提:貧血を伴わなくも鉄欠乏は良くない

メインの話の土台となるので最初にはっきりさせておきますが、たとえ貧血を伴わない場合であっても、鉄欠乏は問題を引き起こし得ます [1]。その代表例がRLSであるわけですが、それだけではありません。

Lancetから2021年に出た鉄欠乏についての総説 [1] には、”ID (iron deficiency) can cause symptoms both in the presence and absence of anaemia, or can be asymptomatic”, すなわち「鉄欠乏は、貧血の有無にかかわらず症状を引き起こすことがあり、また無症候のこともある」(私訳)と書かれています。

鉄欠乏のよくある症状 (文献1より)
  • 疲労
  • 倦怠感
  • 集中力低下
  • めまい
  • 耳鳴り
  • 頭痛

さらには近年、貧血を伴わない鉄欠乏が心不全の増悪因子にもなるということもわかってきています。日本循環器学会と日本心不全学会による「2025年改訂版心不全診療ガイドライン」にも、「鉄欠乏は、貧血を引き起こすのみならず、貧血とは独立して心不全患者のQOLや予後と関連する」と記載されています [2]。

すなわち、鉄欠乏性貧血とはあくまで鉄欠乏の末に出現する症状であり、その前段階でもさまざまな不具合が体には生じ得るのです。

なぜ、睡眠医学で鉄剤なのか?

RLSの診療において鉄剤は重要な武器のひとつです。

例えば、米国睡眠医学会(American Academy of Sleep Medicine, AASM) から2025年に出たRLSの診療ガイドライン [3] を見てみましょう。

ここで書かれるGood Practice Statement, その1つ目にいきなり鉄についての記載が出てきます。

In all patients with clinically significant RLS, clinicians should regularly test serum iron studies including ferritin and transferrin saturation (calculated from iron and total iron binding capacity). (後略)
臨床的に問題となるRLSのある全ての患者において、臨床医は、フェリチンとトランスフェリン飽和度(鉄とTIBCから計算する)を定期的に確認するべきである。(私訳)

さらに日本神経治療学会が2024年に出したRLS治療ガイドラインでも、

RLSの主たる病態は、脳内の鉄の欠乏と動態の異常が上位に存在し、ドパミン作動性神経系の異常のほか、アドノシン作動性神経系の低下、グルタミン酸作動性神経系の過剰興奮など複数の神経科学物質の関与による皮質-線条体-視床-皮質回路の障害が示されている。

とあります。要するにRLS症状を引き起こす大きな原因の一つが脳内鉄欠乏です。

全てのRLSが鉄欠乏のみを原因とするわけではもちろんありませんが、貧血を伴わないものまで含めれば、鉄欠乏はよくある病態。もともとRLSになりやすい素因があったから発症したのだとしても、鉄欠乏がその誘因となることは十分にあり得ます。

もちろんRLS治療薬としてはドパミン受容体作動薬(例:プラミペキソール)やα2δリガンド(例: ガバペンチンエナカルビル)も非常に重要です。
ただ、脳内鉄欠乏を避け、これらの薬を使わないで済む、あるいはつかってもより少量で良い効果を得られるようになる可能性が上がります。

え、RLSなんてそこまで多くない病気なのでは? と思ったそこのあなた。確かに、上記のRLS診療ガイドライン [3] によると、日本人におけるRLSの有病率は1-2%程度と決して多くはありません。

しかし、睡眠の専門外来をしていると、ちょこちょこ遭遇します。

一目瞭然
一目瞭然

寝る前に脚がむずむずするんです

このように自ら脚の不快感を訴えて…というパターンももちろんありますが、それと同じくらいに多いのが、不眠の訴えで来た人の中から見つける場合。

疑わないと
わからない
疑わないと わからない

夜になかなか寝付けません

他に、睡眠時無呼吸疑いで終夜睡眠ポリグラフィ(polysomnography, PSG)で睡眠中の周期性四肢運動(periodic limb movements of sleep, PLMS)がやけに多い人に念のため確認してみたらRLSの存在が明らかになったというパターンもあります。

主役級の存在感を誇ることはないけれど、時々患者さんが現れ無視もできない、そして状況によっては患者さんのQOLを著しく下げているので正しい対処法を学ぶことが必要。そんな病気が、睡眠専門外来におけるRLSです。

RLSがなくとも、鉄欠乏が睡眠に影響を及ぼす可能性

睡眠医学で鉄欠乏と言えばRLS, そのくらい強い結びつきを誇る両者ですが、実のところ、RLS以外の睡眠の問題をも鉄欠乏が引き起こしている可能性があります。

睡眠中の周期性四肢運動と鉄欠乏

睡眠中の周期性四肢運動 (periodic limb movements of sleep, PLMS)は、RLSと非常に関係の深い病態です。「睡眠障害国際分類第3版」[4] には、以下のように書かれています。

ドーパミン神経系の機能障害が、睡眠中の周期性四肢運動(PLMS)と周期性四肢運動障害(PLMD)の病態生理に関与する。さらに、小児におけるPLMS研究やRLS患者におけるPLMS研究から、遺伝素因と鉄欠乏状態も要因と示唆される。(太字強調は筆者)

PLMSの治療法についてのエビデンスは未だ確立していませんが、経験的にRLSと同じ治療がよく行われます。従って、鉄補充もPLMSの治療として選択肢に入ってきます。

「静止不能による睡眠困難」と鉄欠乏

静止不能による睡眠困難は、英語では restless sleep disorder (RSD)と言います。比較的最近提唱されるようになった、小児の睡眠に生じるとされる病態です。睡眠中に頻回に大きく体を動かす落ち着きのない睡眠を特徴としますが、RLSのような「脚を動かしたい」という衝動は伴いません。

RSDの基準を満たす子には鉄欠乏のある子が多く、鉄補充によって日中の眠気などの症状が改善したという報告が、症例報告レベルでいくつか出ています [5] 。

何を、どう測定する?

では、どの検査値をどのようにあてにして、鉄欠乏を診断することが望ましいでしょうか?

まず押さえておきたいのは、鉄欠乏診断のゴールドスタンダードが骨髄穿刺だということです。血液検査の結果は、あくまで実像の影を見ているに過ぎません。しかし骨髄穿刺は侵襲の大きい検査であり、これを鉄欠乏の有無を判定するスクリーニング検査として実施することは現実的ではありません。

代わりに血液検査でよく測定される項目は以下のあたりです。

  • フェリチン: 体内の貯蔵鉄を反映する。
  • 血清鉄:検査直前に摂取した食品や薬剤に含まれる鉄からの影響を受けやすい。肝障害時や透析後も上がる。
  • TIBC:総鉄結合能。基本的に鉄欠乏だと上がる。
  • TSAT: トランスフェリン飽和度。TSAT = (血清鉄)/ TIBC です。
ひつじさん
ひつじさん

血算も忘れず同時に測定しておきましょう!

しかし問題は、フェリチンTSAT (トランスフェリン飽和度)もいずれも、鉄欠乏の有無を判定する上で信頼しきれない指標であるということです。
いずれも、低値ならば実際に鉄欠乏がある可能性は高い、すなわち特異度は高い指標です。しかし、高値である場合でも鉄欠乏の可能性は否定しきれません

フェリチンは、炎症がある時にも上がります。
血清鉄は直前に摂取した食べ物やサプリメント、併存疾患、採血タイミングの影響を受けて変動します。

そんなわけで、どんな状態の人でどの程度のフェリチン値やTSATを鉄欠乏判定のカットオフとするのか、文献によって言っていることはさまざまです。

なおここから出てくるフェリチンの単位が、もとになる文献によってμg/Lだったりng/mLだったりしますが、数値的には等価です。日本では一般的にng/mLが使われますね。

炎症マーカーも測定する?

ところで、フェリチンが炎症に伴って上がり、そのことによって鉄欠乏かどうかの見分けがつきにくくなるということなら、CRPなどの炎症マーカーも同時測定した方が良いのではないかという考えになりますよね。アリです。(と言いつつ、この記事を書くために勉強するまで、私自身はしたことがなかったのですが…)

WHOによる鉄欠乏の測定にフェリチンが有用かどうかについてのガイドライン[6] では、CRPとα1-酸性糖蛋白質(AGP)を同時測定することを推奨しています。AGPと合わせた時の解釈や、炎症マーカーの数値によって調整した修正フェリチン値の計算式なんかもそこには書かれていたりしますが、ひとまず、CRP >0.5mg/dL は「炎症あり」という扱いになることは押さえておきましょう。

測定前日は鉄剤休薬を

血清中の鉄は、概日リズムによって変動し、また直前に摂取した食品に含まれた鉄の量にも影響されます。したがって、影響が最低限になるように採血条件を整えることが望ましいです。

鉄採血実施の理想的条件(AASMのRLS診療ガイドラインより)
  • 午前中に
  • 鉄を含む全てのサプリメントや食品を、少なくとも24時間は控えてから
ウィンクルマン先生
ウィンクルマン先生

I want your iron level, not a hamburger level.
(知りたいのはあなたの鉄であって、あなたが直前に食べたハンバーガーの鉄じゃないんですよ)

…とは、この分野の世界的な権威であるJ. Winkelman先生がAASM公式podcastのRLS診療ガイドライン解説回 [7] に出演された際に仰っていたことです。

鉄欠乏判定の基準値を考える

一般的な鉄欠乏の基準:まとめ
  • 一般的に、炎症のない成人でフェリチン値12~30ng/ml未満が鉄欠乏ありとされる。
  • コクラン・レビューによると、フェリチン値 30 μg/L 未満での鉄欠乏に対する感度79%、特異度98%
  • 感染や炎症がある場合、鉄欠乏の有無についてのフェリチン値の基準は70μg/Lまで上がる
  • 心不全患者では、鉄欠乏の基準は血清フェリチン<100 ng/mL,または血清フェリチン100~300 ng/mLかつTSAT<20%と定義されることが多い

根拠についてさらに知りたい人のために説明を置いておきますが、長い上に本題との関連は乏しいので折りたたんでおきますね。

まず、日本鉄バイオサイエンス学会による「鉄剤の適正使用による貧血治療指針 改訂 第3版」(PDFを無料で読めるので便利です!)では、フェリチン値 <12 ng/mL 未満で鉄欠乏ありと定義しています [8]。

一方、Lancetで2021年に掲載された鉄欠乏についての総説では、”Little primary evidence is available from
high quality studies to justify specific thresholds. (特定の閾値を正当化するための、高品質な研究に基づく一次的エビデンスはほとんど存在しない。)” と断った上で、フェリチンが15 μg/L を切っていれば鉄欠乏が存在することはかなり確実だが、検査前確率が高い場合は30 μg/L未満でも鉄欠乏が強く示唆されるだろうと説明しています。[9]

また、世界保健機関 (World Health Organization, WHO)が2020年に出した、鉄の状態評価のためにフェリチン値をどう扱うかというガイドラインでは、鉄欠乏のカットオフ値を以下のように定めています[6]:

  • 一見すると健康な5歳児~高齢者、妊婦で、フェリチン15 μg/L未満
  • 感染や炎症がある5歳児~高齢者で、フェリチン 70 μg/L未満

さらにコクラン・ライブラリー(医療上の意思決定に必要な質の高いエビデンスを提供してくれることで名高いデータベースですね)では、、「鉄欠乏症および鉄過剰症の指標としての血清または血中のフェリチン濃度」というテーマのシステマティックレビューが提供されていました [10]。

骨髄穿刺で判定した鉄欠乏と血清もしくは血漿フェリチン値を比較した研究を72研究、6059人分集めたものです。

その結論として、フェリチン値30μg/Lの場合、統合推定値で鉄欠乏の感度79%特異度98%になるということでした。

やはり、フェリチン値がカットオフより低いなら鉄欠乏があることはまず間違いないが、高い場合でも鉄欠乏を完全には否定しきれないという傾向が見えます。

もっともこの推定値、なんらかの原因があって病院の外来を受診したり入院したりした、要は具合が悪い人のまとめなのでをそこを加味する必要があります。

ちなみに、ぱっと見健康な人に関してどこをカットオフ値とするべきなのかという疑問については、判断するにはデータが不十分ということで、このレビューは結論を出していません

レビューは結論を出していません

「2025年改訂版」心不全診療ガイドラインには、以下のように記されています [2]:

心不全患者の鉄欠乏の基準として,血清フェリチン<100 ng/mL,または血清フェリチン100~300 ng/mLかつTSAT<20%と定義されることが多い

さらに調べてみると、「心不全患者において、フェリチンよりはTSATの方が、骨髄穿刺で調べた鉄欠乏に対して感度・特異度がいずれも高い」と報告している研究結果に行きあたりました [11] 。

心不全のある人だと、他に併存疾患を抱えていることが多そうなので、そのことによってフェリチンが上がりがちで鉄欠乏を判定するためには使いにくい…ということがあるのかもしれません。

RLS患者における鉄欠乏の基準

RLSでの鉄欠乏の基準は、一般人口とは違います。

AASM(米国睡眠医学会) が出した診療ガイドラインには、以下の内容が書かれています [3]:

RLSのある成人フェリチン値 75 ng/mL以下またはTSAT 20% 未満経口または静脈注射による鉄剤投与を開始する。フェリチン値が75~100 ng/mlの場合は、静脈注射による鉄剤投与のみ行う。
RLSのある小児フェリチン値 50 ng/mL未満の場合に経口または静脈注射による鉄剤投与を開始する。

ここで見ていただきたいのは、RLSがある方だとフェリチン値のカットオフ値がけっこう高いということです。心不全を併存している方ほどではない。しかし、一般的な基準としてここまで紹介してきた12 ng/mlや30 ng/ml よりは明らかに高い。

どうしてこうなるのでしょう。上記のガイドラインでは、その理由をこう説明しています。

In RLS, however, it is likely brain iron deficiency, particularly in specific brain regions, is involved in its pathophysiology. (強調筆者)

すなわち「RLSで問題となっているのは脳内鉄欠乏だから」ということだそうです。RLSのある人と対照群それぞれにおいて脳脊髄液と血液を比較した研究では、血中フェリチンとヘモグロビンがRLSの人と健常な対照群で有意な違いはなく、なおかつ両方とも正常範囲内であったにもかかわらず、RLSのある対象者の方が脳脊髄液中のフェリチンは低かったとのこと [12]。

それってもはや、血液検査は何の役に立つのかと聞きたくなってくる話です。フェリチン値が75 ng/ml 以下なら経口鉄剤を使おうとされている理由も、「血中フェリチンが上がるほど経口鉄剤の吸収が悪くなってきて、75 ng/mlを超えるともはやほとんど効果がなく、そうなると静注の鉄剤から鉄を補充した方がいい」ということみたいなんで…。

ただまあ当然、静脈注射で鉄剤を使うとなると鉄過剰症を引き起こす危険が跳ね上がる。それで今のところ、例えばAASMのガイドラインでは、通常の成人RLS患者に対してはフェリチン 100 ng/ml未満の時のみ静脈注射での鉄剤投与を推奨するなど、線引きをしているということのようですね。

本邦のRLS患者に鉄の静注まですべきか問題

というわけで、AASMのガイドライン(そして今回は言及しませんでしたがIRLSGGというRLSに関する権威あるワーキンググループ)の見解では、RLS患者に対する鉄補充の手段として静脈注射をも積極的に推しています。

ただ個人的には、今の日本でRLSを治療する手段として鉄剤の静注を行うことは勧めません
色んな意味でリスクが跳ね上がるからです。

  • まず前提として、そもそもRLS患者に対する鉄補充は2026年現在の日本において保険適応外となる行為である。
  • 経口鉄剤と違い、静注で鉄剤を投与した場合は鉄過剰症が引き起こされるリスクが比較的高い。
  • 静注鉄剤にはアナフィラキシー発症のリスクもある。

まあそれに、これは医療機関ごとに全く事情が違いそうではありますが、睡眠専門医療機関の場合だと薬剤の静脈注射を行う機会はないのが通常ではないかと思うんですよね。慣れない手技を実施することによって、思わぬ間違いが生じるリスクも無視できません。

この問題について、本邦で名が知られたRLS専門家の先生方が意見を交わす場に居合わせたこともありますが、静脈注射まで実施しているという先生はいらっしゃいませんでした。

鉄欠乏貧血を見たら、原因について必ず考える

なお、RLSやその疑いのある人を見る度に血液検査をしていると、鉄欠乏性貧血に遭遇することも時々あります。

そんな時に忘れてはならないのは、「鉄欠乏性貧血の原因は何なのか?」と考えることです。

鑑別診断について語れるほどの立場ではないので、2点のみ言います:

  • 月経がある年齢の女性なら、過多月経に伴う鉄欠乏である場合が圧倒的に多いわけですが、実際に月経量が多いかなど確認し、必要に応じて婦人科受診を促しましょう。消化管出血の可能性についても、一度は確認して記録に残しましょう。
  • もし高齢者や男性で鉄欠乏性貧血が見られたら、消化管出血など見過ごしてはいけない問題が隠れている可能性が高いので、しっかりと精査に送りましょう

経口鉄剤をなるべく安全に使うために

鉄過剰症のリスクを忘れない

体というものはよくできており、血液中の鉄が足りているほど、経口での鉄の吸収は悪くなるようになっています。そのため、経口での鉄剤使用は、静脈注射で鉄を使う場合と比べれば鉄過剰症のリスクは大幅に低いと言えるでしょう。

ただし、大量の経口鉄を30年間摂取し続けた人が鉄過剰症のリスクとなる基礎疾患がないにもかかわらず二次性ヘモクロマトーシスを発症したという症例報告はあり[13]、危険性がゼロではないことを念頭においておきましょう。

少しの鉄でも問題を引き起こしかねない病気であるヘモクロマトーシスは幸い日本人では稀ですが、肝機能障害も、経口鉄剤で鉄過剰症のリスクとなります。気をつけましょう。

処方時に説明しておくといいこと

経口鉄剤のよくある副作用
  • 悪心
  • 嘔吐
  • 腹痛
  • 下痢
  • 便秘

このような消化器系の副作用が出る人が、10%~20%ほどいます [8]。要するに、そこそこ多いです。
処方時に、副作用についてあらかじめ説明しておきましょう

私は、初回処方時には食直後に服用してもらうよう指導しています。食事と一緒に鉄剤を摂取した方が副作用は軽減するためです。吸収効率で言えば空腹時服用の方が良いわけですが、副作用のせいで鉄剤に対して拒否的になられては元も子もないなと思うので。同じ理由で低用量から開始しています。

なお、1日おきの服用でも鉄剤の効果は変わらない上に副作用は軽減するという報告もあります [14] 。少しでも副作用が問題となる人なら、1日おきの服用として処方することが良さそうですね。

いつまで鉄剤を続けるか?

一般的に、貧血を伴わない鉄欠乏の治療については、いくつかの総説や臨床医向けリソースが、フェリチン100ng/mL以上をターゲットとして治療することを推奨しています [15]

RLS治療に関しても、Mayo Clinicが2021年に出版したRLS治療に関するアルゴリズムでフェリチン100μg/L以上を治療ターゲットとすることを勧めています [16]。

鉄補充する際のフェリチン値目標は、一般的に100ng/mL以上

ここからは、数値についてのただの感想ですが…

RLSや貧血を伴わない鉄欠乏の治療について、フェリチン100ng/ml 以上という数値の根拠となる研究が提示されていないな?とは調べていて感じました。


なお鉄欠乏性貧血にても、大昔に内科医をしていた時、治療で100ng/mlを目標にフェリチンを上げると教わった覚えがあります。でも今調べたらそれはそれで数値の根拠となる研究があるというわけではなさそうなので、慣例的にこのくらいがコンセンサスなんでしょうかね…


しかもここまで学んだことを踏まえると、フェリチン75ng/ml 以上だと経口鉄の吸収が悪くなるはずなので、果たして経口鉄のみで100 ng/mlに達する日は来るのか…? という疑問が出てきましたね…。個人的な治療体験としては、いないわけではないけれども多くはないという印象…

おまけ:もしかして、鉄は眠気とも関連する?

ここから先は、まだあまり裏付けのない話です。

個人的な意見として、RLS治療以外にも睡眠診療で鉄剤が有用な場合があるのではないかと考えています。それは過眠症状の治療において。

というのは、鉄欠乏のある人に鉄補充を行ったら、他に考えられる理由もなく眠気が改善したという経験を2,3回しておりまして。

本当のところはそこを検証する臨床研究ができればベストだったのですが、諸々の事情でそれはかなわなかったので、疫学研究でそれに近いテーマで研究しました。質問票によって推定した鉄の摂取量と、質問票で測定した眠気(エプワース眠気尺度)の関連を、2405名の地域住民を対象とした横断研究で見たものです。
その結果として鉄の摂取量が少ない群の方が、鉄摂取量が多い群よりも自覚的な眠気は強いという傾向が認められました [17]。

これだけだと「鉄欠乏の治療によって強い眠気が改善することがあるかも」という問題意識に対する直接の答えになっているわけではないのですが、ひとつの足掛かりと言えるとは思うので、今後どなたか検証してくだされば良いなあと思っています。

もし実際に鉄欠乏が眠気とも関連する場合、その機序は、RLSと同じく脳内鉄欠乏ではないかと考えています。脳内鉄欠乏があるとドパミン系の機能異常が生じやすくなり、それがRLSの原因となると言われているわけですが、ドパミンは覚醒系を駆動する重要な神経伝達物質のひとつでもあるのです。

最後に

  • RLSが疑われる人を見たら、鉄関係の評価を行いましょう
  • フェリチンとTSATいずれかが低ければ鉄欠乏の存在はほぼ確実だが、両方とも基準値を超えていても、鉄欠乏は否定しきれません
  • 鉄剤を患者さんが安心して服用できるための工夫を心がけましょう

参考文献

  1. Pasricha SR, Tye-Din J, Muckenthaler MU, Swinkels DW. Iron deficiency. Lancet. 2021 Jan;397(10270):233–48.
  2. 日本循環器学会/日本心不全学会 共同ガイドライン委員会 編. 2025年改訂版 心不全診療ガイドライン. 日本循環器学会, 2025.URL: https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2025/03/JCS2025_Kato.pdf(最終アクセス日:2025年12月3日)
  3. Winkelman JW, Berkowski JA, DelRosso LM, Koo BB, Scharf MT, Sharon D, et al. Treatment of restless legs syndrome and periodic limb movement disorder: an American Academy of Sleep Medicine clinical practice guideline. Journal of Clinical Sleep Medicine. 2025 Jan;21(1):137–52.
  4. 日本睡眠学会, 監訳. 睡眠障害国際分類 第3版 改訂版 (ICSD-3-TR). 東京: 一般社団法人日本睡眠学会; 2025.
  5. RSDの文献
  6. WHO Guideline on Use of Ferritin Concentrations to Assess Iron Status in Populations. 1st ed. Geneva: World Health Organization; 2020. 1 p.日本神経治療学会 編.標準的神経治療:Restless legs症候群診療ガイドライン(2024). 神経治療学. 2024;41(2):129–76.
  7. American Academy of Sleep Medicine. Talking Sleep: RLS clinical practice guideline update [podcast on the Internet]. Season 6, episode 22. Drs. John Winkelman & Andy Berkowski; published Nov 8, 2024 [cited 2026 Jan 16]. Available from: https://aasm.org/talking-sleep-rls-clinical-practice-guideline-update/AASM podcast
  8. 日本鉄バイオサイエンス学会(編). 鉄剤の適正使用による貧血治療指針 改訂[第3版]URL: https://jbis.bio/wp-content/uploads/pdf/zyouzaiv3.pdf (最終アクセス日 :2025年12月3日)
  9. Pasricha SR, Tye-Din J, Muckenthaler MU, Swinkels DW. Iron deficiency. The Lancet. 2021 Jan;397(10270):233–48
  10. Garcia-Casal MN, Pasricha SR, Martinez RX, Lopez-Perez L, Peña-Rosas JP. Serum or plasma ferritin concentration as an index of iron deficiency and overload. Cochrane Tobacco Addiction Group, editor. Cochrane Database of Systematic Reviews [Internet]. 2021 May 24 [cited 2026 Jan 16];2021(5). Available from: http://doi.wiley.com/10.1002/14651858.CD011817.pub2
  11. Grote Beverborg N, Klip IjT, Meijers WC, Voors AA, Vegter EL, Van Der Wal HH, et al. Definition of Iron Deficiency Based on the Gold Standard of Bone Marrow Iron Staining in Heart Failure Patients. Circ: Heart Failure. 2018 Feb;11(2):e004519.
  12. Earley CJ, Jones BC, Ferré S. Brain-iron deficiency models of restless legs syndrome. Experimental Neurology. 2022 Oct;356:114158.
  13. Lands R, Isang E. Secondary Hemochromatosis due to Chronic Oral Iron Supplementation. Case Reports in Hematology. 2017;2017:1–3.
  14. Stoffel NU, Cercamondi CI, Brittenham G, Zeder C, Geurts-Moespot AJ, Swinkels DW, et al. Iron absorption from oral iron supplements given on consecutive versus alternate days and as single morning doses versus twice-daily split dosing in iron-depleted women: two open-label, randomised controlled trials. The Lancet Haematology. 2017 Nov;4(11):e524–33.
  15. Soppi ET. Iron deficiency without anemia – a clinical challenge. Clinical Case Reports. 2018 June;6(6):1082–6.
  16. Silber MH, Buchfuhrer MJ, Earley CJ, Koo BB, Manconi M, Winkelman JW, et al. The Management of Restless Legs Syndrome: An Updated Algorithm. Mayo Clinic Proceedings. 2021 July;96(7):1921–37.
  17. Tanno S, Ikeda A, Maruyama K, Saito I, Tomooka K, Tanigawa T. Association between iron intake and excessive daytime sleepiness in the community-dwelling Japanese: the Toon Health Study. Sleep Breath. 2025 Mar;29(1):50.